第88話 破壊呼ぶ命の咆哮

「厄介この上ない! 面倒かな、面倒かな! 」


「これではいくらボク達でも拉致が空かないぞっ!? 」


 炎の化身クトゥグアが、そして黄衣の王ハスターが討ちあぐねるは双子と言う

 ロイガーとツァールの本質的な神性は、かの邪神になぞらえる者達でさえ範疇の外であった。


 そこには外なる大邪神クトゥルフを初めとする邪神生命が、本来は相容れぬ思考と思想を持ち……しかしそれらが因果の盟約に基づき共闘している点が関係する。

 即ち彼らは通常であれば一柱の邪神生命として活動するが常であり、従えられる下位邪神生命を除く上位存在はいつ敵対してもおかしくはないのが実情。


 故に敵対していない時点では、互いの本質へ探りを入れたりしないと言う暗黙のルールが成り立っていた。


 片翼を羽ばたかせて次元を歪め、あたかもそこが大気に包まれた天空の如く舞う右翼の異形ロイガー

 その歪めた次元が生成した素粒子対消滅を齎す閃光を浴びせかける。


 それを邪神生命が受けたとて、毛ほどの傷も受けぬ所――今炎の化身と黄衣の王が搭乗するは通常の機動兵装。

 いかな邪神世界の技術で改修したとは言え、その閃撃の直撃は致命打となりかねない。


『クトゥグア、ハスター ――あなた方は後方からの支援を! 我らが突出します! 』


『シャルージェ卿に同意だ! 餅は餅屋……前衛はこの世界の住人に任せてもらおう!』


 その二柱の邪神が駆る機動兵装を守る様に躍り出るは、この宇宙が誇る

 こちらは通常の機動兵装を以ってしても、余りある個々の能力が如何なく発揮される。


 疑似霊格兵装タケミカヅチが本来霊格を宿す事を想定した造りとなっていたため、搭乗者の霊的な素養が機体性能上昇に繋がっていた。


 魔剣の侍女シャルージェの双剣が踊り、赤眼の真祖シューディゲルが放つ蝙蝠型ビット兵装が量子振動の閃撃を四方八方より斉射。

 さらに後方に下がる二柱の邪神が、プラズマの光断と触手兵装の遠距離刺突にて援護攻撃。


 体躯では倍の差がある右翼の異形も続けざまの攻撃でその身を引き裂かれる。


 そんな中でも、右翼の異形は放つ苦し紛れの閃撃で盾の要塞艦ヒュペルボレオスまでも標的に捉える。

 艦も守りの盾八咫天鏡を展開して居るとは言え、邪神生命が放つ一撃を受けてはその足が鈍っていた。


「対衝撃防御! ユイレン君、ロイガー及びツァールの生命的特長解析は!? 」


「待って下さい――現在ネクロミノコン照合中です! 」


「コアが二つの身体の間で量子ジャンプで逃げ回るとか、どんな無理ゲー!? 」


「そんなのまとめてぶっ飛ばせればいいんだけどね! 」


「無茶言わないで! 相手は邪神生命よ!? 草薙さんやシエラさんでも、そんなの相手を無理よ! 」


 盾の局長慎志にも焦燥が浮かぶ。

 それはオペレーター娘らにも伝播し、いよいよ時間的な限界が迫りつつある今に場が逼迫し始めた。

 眼前で討ちあぐねる邪神のその背後には、紛う事無き異形の群勢が大挙しているのだから。


 時間的制約に押され始めた救世の志士達。

 だが――



 その通信に紛れた言葉で活路を見出した者が直後……膠着状態の場へ形勢逆転の一撃を叩き込む事となる。



§ § §



 いびつ山羊共を蹴散らしながら、接敵するは親玉の

 現状この暴竜モードとでも言う形態の竜星機オルディウスが持つ攻撃手段は、ガチのクロスレンジ突撃。

 恐竜と言う生命がモチーフであるこの形態では仕方ない戦闘法。


 せめてもの救いは、邪神の精神汚染を防御する霊的防壁展開が可能な事か。

 先に食らった高次元直送の精神汚染の波長を現在、エリーゼが解析して事なきを得ている。


「この邪神相手に噛み付きはなかなか良いダメージ源だが、流石にハスターじゃないが拉致もないな! 」


 端整な顔立ちだった通常とは違う、竜星機オルディウスとは思えぬ禍々しい面構えからのアギトの一撃は黒山羊の巨大な体躯を食い千切る。

 けれどゼロ距離からの反撃をモロに受ける状況は、正に巨大なる獣の殴り合い。


 それこそどこぞのとなっている事だろう。


「エリーゼ! 君の協力を受けていてアレなんだが……ドレッド・ノートとの竜機換装の様な兵装は持ち合わせていないのか!? こっちは兎も角、ロイガーとツァールはとんだ食わせ物だ! 」


『そこは割り切られよ、マスター草薙! ドレッドのシステムは、ローゼリアが目覚めた時点でアリスと霊的に連結される! よって現状ではドレッド・ノートの支援は得られない状況――と、アイリス嬢から意識へ伝達されている! 』


「あ~~悪りぃ、そんな所だとは思ったんだけどな! そもそも竜星機オルディウスが覚醒するまでが、アイリス達の――」


 無い物ねだりな質問へ困り顔のエリーゼが返答をくれるが――

 そのちょっとむくれた表情には、空気が読めていない失言だったと謝罪を送る。

 俺への支援に幸福さえ覚えているエリーゼの気持ちを忘れてしまう所だった。


 そんな思考でなおも黒山羊の巨体と接敵する俺の聴覚へ、後方のロイガーにツァールを任せた面々からの通信が乱れ飛ぶ。


 直後……そのささいなフレーズで閃きが降りた俺は、弾ける様にエリーゼへと機体内通信を飛ばした。


「エリーゼ! そもそもこの竜星機オルディウスは、ノアの箱舟の役目を持っていたな!? その機体内に集積された霊的情報総量はいくらぐらいになる!? 」


『霊的情報総量、と? それは……少なくともあの地球に現存する生命種。その種類数同等と、我は聞き及んでいるけれど――』


「ならそいつらの霊的情報を使い、エネルギー保存の法則に基づいた相転移を引き起こす事は可能かっ!?」


『まさ……か、その霊的情報から相転移で集束熱光学エネルギーを!? それはマスターが生きる現代では理論体系さえ存在していないぞ!? 』


 俺の放つ言葉に目を白黒させ驚愕するエリーゼへしたり顔を返す。

 確かにそれは、現代社会では理論的な解明さえなっていない宇宙の真理。

 なれど俺達三神守護宗家は、そんな代々受け継いだ家柄。


 だからこそそれが選択肢として浮かんだ。

 そう――俺の身体には草薙家当主を受け継いだ時より、最強の破壊神の力の一端が宿っているんだ。


 その力を限界まで引き出してしまえば、俺は破壊神に喰われて絶命するだろう――が、霊的な一撃に点火する程度ならば耐えられるは熟知済み。


「なに……それが叶うってんなら話は早い。俺に宿る破壊の炎神の力を起爆剤にし、相転移変換したエネルギーを集束して解き放つ! 知ってるか?エリーゼ――」


「世界人類の守り神であり破壊神でもある存在を、現代人は畏れと敬意を込めてこう呼ぶんだ――生態系をも越えた存在……怪獣ってな! 」


 思考に描いた存在が機体の情報回路へと流れ込み、言葉の意味を悟ったエリーゼが歓喜に打ち震える。

 俺達が住まう世界で偉大な守り神であり破壊の権化である者は彼女――人類が畏怖して止まない巨大なる恐竜それと、ある種同質の存在とされるから。


 それは竜星機オルディウスにさえ浸透し、宇宙へと咆哮が次元的に木霊する。

 己の意志のままに、力添えも惜しまぬと。


「いいぜ、オルディウス……お前も話が早い! なら見せてやろうぜ……まずは後方――両方まとめてロイガーとツァールを消し飛ばしてやるぜっ! 」


 咆哮と供に眼前へ二つの五芒星顕現を念じれば、左右へエルダーサインと陰陽五芒が宙空へ。

 それらが合わさる中心へ向け、組んだ印で己が身に宿る破壊の炎神の力顕現を請うた。


「我が身に宿りし天津神は最強の破壊神 ヒノカグツチよ……草薙表門当主 草薙 界吏くさなぎ かいりの名に於いて、その御力を借りたまう! 」


「草薙流 神代降臨極術 〈神降ろし〉――」


『……これほどの波動が――これならば! こちら竜星機オルディウスコア エリーゼ! ロイガーとツァールを引き付けし方々、それらをこれより送るデータの射線上へ誘い込んで頂きたい! 』


 これより放つ一撃を察したエリーゼが、素早き通信で皆を誘導する。

 こいつならばロイガーにツァールを二体間を移動するコア諸共消し去れる。


 黒山羊親玉を長い尾の一撃で遠のかせて反転した竜星機オルディウス

 次いで機体前方へ現れたる重なり合った二つの五芒星。

 箱舟内に眠りし蒼き地球に住まう数多の生命情報が相転移を終え、エネルギー変換と同時に五芒星そこへ向け集束して行く。


――得とその身で味わえ偽双子ヤロウ共っ! 」


「暴竜形態奥義……霊極竜咆放射熱線ドゥラギック・ブラスターーーーーーっっ!! 」


 そして……まるで竜機の口から放たれた様な破壊の閃条が、宇宙へ猛烈な対消滅反応をばら撒き――



 すでに誘導された二柱の偽双子生命共へと奔り抜けた。

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