第87話 止まぬ脅威、ロイガーとツァール
それは他ならぬ、共にあった家族達と今手を取らんとする幾多の勢力がいた故である。
地球と呼ばれた星は生命の揺り籠としての使命を持ち、数多の生命が等しくそこで生を受ける事を願い生み出された。
それは大自然と物理の因果が絡み合った壮大なる願い。
観測者と言う存在は言わばその代弁者であり管理者なのだ。
しかし人類の傲慢は、その
結果、邪神群と言う外宇宙からの審判者を呼び込む事となってしまう。
だがしかし——それが過ちと理解出来るなら、それを認め改める力を与えられているのも人類である。
それも人類だけではどうにもならないならば、異なる種の助けを借りてでも事を成す——それだけの生命の価値が……傲慢をひた進んだ彼らには残されていた。
「アイリス達はこのまま支援を続けて! 今の
現宙域に残す邪神生命は黒山羊嬢王と僅かの手勢となっていた。
迫る救いの勢力を視界に捉える黒山羊嬢王。
その本体内で、異形なる嬢王が双眸を細め……口にした。
「
『『御意。顕現、開始。』』
邪神たる圧力と同時に放ったそれに応えるは、質の異なる重厚にして簡素なる語り。
刹那、黒山羊嬢王本体左右の宙域が
そこより出でたのは——
「局長っ、この反応は——ネクロミノコンによりデータ算出……っ!? これは上位邪神生命のロイガーとツァールですっ! 」
「くっ……ここに来て隠し玉を晒して来たかっ! 」
『人類らよ、警戒せよ! ロイガーとツァールは一筋縄では行かぬ相手ぞ! 連携を怠るなっ! 』
姿形が似通うそれは双子の邪神とされるロイガーとツァールである。
片翼を携える金と銀の装飾鎧に身を包み、対し頭部は異形らしき歪さが晒されていた。
そこへ
『シエラとやら、私達が片方を相手する! そちらはそちらで対処——連携かな、連携かな! 』
「クトゥグア……行けるのですか!? 」
『心配には及ばないよ、シエラ嬢! こちらは通常機動兵装だが、邪神に人ならざる者が搭乗している——そこへヒュペルボレオスの兵装を加えれば時間程度は稼げるさ! 』
「分かりました……お任せします、クトゥグアにハスター! そして二人にも! 」
大海の巨躯が発した警戒へいち早く対応を見せる
邪神に属する者が揃って警戒を成す現状が、人智の範疇を超える事態と悟る
女神のモニターへ映る人外の協力者二人へと視線を飛ばした。
言葉にせずともそれを察した
合わせた様に飛来した邪神の駆る二機も加わり、新たな邪神生命迎撃の準備が整った。
『我はロイガー……! 』
「知っているとも、薄気味悪い奴め! けれど残念——私達はすでにお前達の敵対存在! 離反かな、離反かなっ! 」
『吸血の! それと剣の! こいつらは図体に似合わぬ速度を持つ——が、警戒するはそこではない! ボク達も、こいつらとは交戦が初めて故……この程度しか情報提供できないのは察しろ! 』
『確か邪神を含めた観測者に準える者は、不干渉の制約があると……その旨は魔王猊下より聞き及ぶ! 』
『それが聞けただけでも僥倖です、邪神ハスター! では——』
四人の間で交わされるやり取りは僅かな言葉のやり取り。
だがしかし、その申し合わせた様な呼吸はすでに
さらにはそれぞれが戦いに特化した存在である事が多分に影響しあい——
一方の邪神生命へ向け、四機の
§ § §
『我はツァール……! 』
「っ……!? 随分と珍妙な邪神ね! アリスっ! 」
『シエラ、警戒を! この者、妙な違和感を感じます! 』
すでにクトゥグアらの方へ現れた銀の外郭を纏うそれと同様、私達の眼前へ現れた邪神は今までの邪神と比べるまでも無く異様さが其処彼処へ滲み出る。
モニター越しで送り付けられるは、先の邪神の様に人間に近しい霊的肉体ではない――エネルギー光球を囲む機械核と思しき物が声を上げる様。
それはある意味霊的に高位であるとも言える。
アリスによれば、人類が持つ肉体とは低次元たるこの現世へ霊的な個の持つ自我を縛る入れ物に過ぎず――
本来それを必要としない観測者に準える者達に於いては、肉体と言う物さえ無用の長物であると言う事。
機動兵装の様な技術的なそれも、在るべき住処と異なる外宇宙へ接触する際にのみ用いられるとも聞いていた。
「警戒は厳に……しかし猶予もない所――であれば! アイリス、ドールの連携統制……お願いできる!? 」
『はい、シエラ様! そのお願いをお待ちしておりました! 』
そしてクトゥグア達がロイガーを相手取り奮戦している。
今まではそれを後で見る事しか出来なかったけれど……このローゼリアが供にある瞬間であれば、私は重要戦力に加えられる。
舞い飛ぶドレッド・ノートを見やり、ウボ・サラスを屠る事が叶ったのは彼女――アイリスを中心に据えたドレッドとの連携が起点であると確認していた。
そこで彼女へと飛ばす信を持った願いに、笑顔で答える姿が今は頼もしくて仕方がない。
彼女を機械か人形程度にしか見ていなかった自分が恥ずかしくなる程に。
『では近接支援にファイアボルト! 物理及び光学兵装砲撃支援で、ライトニング、エクリス……そしてマグニア! 』
『ウィスパは私と後方――相手の未知の特殊性を考慮し、ローゼリアの背を守ります! 』
『了解だぜぃ! 近接はお任せさぁ! 』
『相手の行動が読めない……ならばそれがベストだね、アイリス! 』
『ですわね。
『ほえぇぇ~~! シエラ様との共闘に腕がなる~~! 』
『な、なのですぅ~~! ウィスパもがんばるのですぅ~~! 』
心地良いドールズの声が乱舞し私の聴覚を振動させる。
それが嬉しくて、不謹慎ながら笑みを零すも――今は戦いの最中ゆえ気を引き締める。
すでに馴染む、女神を動かすための感応式であろう宙空立体操縦パネルへ手を
そのまま、ウイング形状のプラズマブレードを纏うフレアドレッドと
後方からのワイズドレッドによる量子ジャンプからの弾幕に、テスラドレッドのレールファランクス……そしてライナドレッドの実体弾乱射を背に――
眼前のツァールを
けど――
「……っ!? 手応えが無さ過ぎる……! この邪神は――」
『シエラ嬢、油断するな! その程度ではそやつは捉え切れんぞっ! 』
直後響くノーデンス卿よりの通信で、すかさず切り抜けた宙域へと振り返れば……そこには
それがみるみる再生していくのを目の当たりにしてしまう。
『我はツァール……! 』
「再生機能!? それにあれだけの攻撃を加えてなお、コアが生きているなんて……!? 」
『抜かったわ……! ワシらでもかの宇宙では、
『早い話が、こやつらはコアである本体を二体の兵装間へ量子ジャンプする事で致命傷を避け――高速再生機能を有する入れ物間を自由に行き来するただの一個の個体じゃっ! 』
「まさか……双子と言う情報そのものがデコイとでも!? 」
ノーデンス卿の言葉で理解する。
私は二柱の兵装と、ロイガー……そしてツァールと発言するそれに惑わされていたと。
人間の知覚領域では遠く及ばぬ邪神生命の本質は、想定もしない形で私の眼前で猛威を振るっていたんだ。
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