第52話 真理なる裏切りの吸血鬼
「少佐、こちらです!」
「レベント少尉、よく持ち堪えました!すでにヒュペルボレオスでは
観測者との待ち望んだ再会を果たした
その彼女が玄関口大広場へ戻るや受けたのは、かの
辛くも凌いだ少佐はすぐに場をもたせた付き人少尉と合流。
が——
「こちらで何とか機関までの足を確保します故、少佐……今しばらく耐えて下さい!」
「この様な事態に不満を言う訳にも行かないでしょう……耐えてみせますよ!」
心中はすぐにでも
それでも……この状況で耐え凌いだ忠臣の如き付き人少尉を置き去りにする事など出来なかった。
邸宅を包む十字砲火。
そこより時を同じくした、先に少佐一行が襲撃を受けた地点も未だ交える火花は消える気配を見せなかった。
§ § §
反組織の放つ自動小銃の弾幕を掻い潜り、
だが魔剣を体現する侍女をしても、その部隊がバラ撒く銃撃全てを凌ぎきるには不利と言わざるを得なかった。
「なかなか耐え凌ぐな、魔剣の君よ!それ程までに加担する価値があるのか!?現代の人類には!」
「くっ……人類が価値ありし者と言える程に、世界が辿った道は良いとは言えないでしょう!ですが私は——」
「ランスロット家の盟友であるガウェイン家の唯一にして最高の御家継承者……シエラ様が信じる人類を信じる——それだけです!」
二対の
が……反組織の放つ十字砲火が、その事態を逼迫させると言うほどの事はなかった。
そこには魔剣の侍女が最初に葬った隊員以降、無用な殺生を控えていると言う要因がある。
古代兵器である彼女は曲りなりにも騎士家に仕えし者――相手が下賤の輩とて、無下に命を葬る
「ふっ……その気概は
「敵ながら……はっ!——通じる物があると言うのは、奇遇ですねっ!せいっ!」
弧を描く
一進一退の攻防も、謎の共感に揺れる二人は打ちあう攻撃の激しさを増加させた。
互いに心酔する主がおり——
共にそこよりの指示に己の命運を乗せるからこその共感であったのだ。
その拮抗はすでに上空を光が過ぎ去った後の攻防であり、事態が動くには十分な時間が経過していた。
「さっさとそのアマを片付けろ、テオドール!テメェにも高い金払ってんだ……これ以上長引かせるってんなら——」
「だがそろそろ、哀れなピエロも店じまいだ。俺もあの愚物の下品な物言いに愛想が尽きていた所……頃合いか。」
「なっ……何を——」
背後より飛ぶ
魔剣の侍女の刃を弾くや、P90の銃口をその下賤なる輩に向け——
連射音とマズルフラッシュが、男の命を削り取った。
「て……テオ、ド……——」
「ここまでしても洗脳が解けぬとは、
「何をしている、
突然の出来事。
魔剣の侍女が敢えて討たぬ様生かしていた、組織の頭目が刹那の銃弾に倒れる。
だが顔色一つ変えぬ赤眼の真祖は、一足飛びで男の背後に回ると——まだ息がある男の首筋に牙を突き立てた。
みるみる生気と張りを失う男はすぐに力尽き、それを視認した組織員は突如の恐怖で恐れ
男の血を吸い尽くした真祖は口元を拭いながら語る。
己の行動の真相を——
「真に高貴なる真祖は
「この世界には、法も倫理も通用せぬ真の悪が蔓延っている。そんな輩は自ら人権を放棄したも同然。故にそれを食らう者である俺達〈闇夜を生きる魔の種族〉がいるのだ。」
散りじりとなった敵対者からの裏切りを宣言する様に、真祖は語る。
己の任は果たしたとの満足げな面持ちで。
「どうやらお前達は、すでに観測者からの協力を取り付けた後と見た。ならば俺もこんな無様なピエロを演じる
「言っている意味が分かりかねます。」
「言葉の通りだ。俺はお前達人類の真価の程を見定める役を担う者——だが、見込みありとの確認が取れればそれ以降……己の義に従い行動せよとの命も受けている。」
真祖の言葉に怪訝な表情を浮かべる魔剣の侍女。
警戒は未だ緩めず問い
「仮にも、我らの主家とあなた方は敵同士でしょう?その言葉を信用は出来ません。」
「敵同士——それはあくまで地上の小さき種同士の話だ。だが今地球を襲う事態は一体なんだ?そもそもその争いも、住まうべき大地が滅亡するのならば本末転倒……つまりはそう言う事だ。」
そこまで語った真祖は己の銃を地に置き諸手を上げた。
敵対者となり、争うばかりの今を終息させるために。
「これより俺は己の義に従い、地球を守護せし機関と行動を共にする。例えそれが魔王猊下に対する反逆となろうとも……義に従ったものならば、むしろあの方が賛美を贈ってくれる。」
そして上げた諸手の片方。
親指で指し示した方角に一台の車両が停車していた。
「魔剣の君が行かせた少佐殿を機関に届けるのだろう?どの道組織の者が車両を攻撃・破壊したのは目に見えている。足が必要のはずだ。」
「信用して……良いのですね?」
「我が主、魔王猊下に誓って。」
語る言葉に偽りなきと判断した魔剣の侍女は、双眸を閉じ僅かに思考。
そして開いたその目で首肯を返すと、指示された車両——赤眼の真祖が駆るには上等とも言える真紅が
2プラス2乗車を可能とする赤ヘッドV8エンジン搭載の跳ね馬……フェラーリ・ローマが高貴なる者達の騎乗を今かと待ち侘びる。
そんな彼女が現代の調教された鋼鉄の血統馬へ乗車し——真祖がエンジン始動と同時に煽るアクセルで、白煙を巻き上げながら
甲高いエキゾーストは、
「騎士邸まで飛ばす!舌を噛むなよっ!?」
後輪が大地を掻き
§ § §
止まぬ十字砲火が突如として静寂に包まれたのは、視界を占拠する者達が私達の盾とならんと馳せ参じたから。
「各員、速やかに反抗勢力を拘束せよ!奴らは生かして後、法の下で裁きを下す!」
「ガウェイン卿、ご無事ですか!?」
「……今はシエラの名でお願いします。ええ——助かりました。」
特殊カーボンケブラベストと足並み揃う兵装を纏うは、我らがヒュペルボレオス指揮下に入った英国統一防衛軍 古代技術管理部門。
その中核をなすラードミル・ランスロット・ベリーリア直属の私設防衛部隊だ。
次々拘束される反抗組織を尻目に頷き合うレベント少尉と私。
そんな私の聴覚を聞き慣れぬ高周波サウンドが貫いたのは、部隊に機関までの足を用立てて貰おうと動いた時だった。
「あれは……シャルージェ!?……と——」
視認した赤きそれの助手席に見えたのは愛しき魔剣の侍女。
対し、運転者は見慣れぬ優男——けど……その双眸を見た時点で朧げながらに正体へ辿り着く。
「……なっ!?なぜシャルージェが真祖と共に行動を!?」
その疑問を置き去りにする様に赤きマシン——エンブレムを見る限りフェラーリであるのは確実なそれがハーフスピンで急停車する。
すかさず助手席より降り立つシャルージェが——
「詳しい事情は後です、シエラ様!機関へお送りします!こちらへ!」
信頼に足るシャルージェの有無を言わさぬ雰囲気に、今まで私を守り抜いてくれたレベント少尉を一瞥する。
と、私が言わんとする事を察した少尉が厚い忠義を乗せた言葉を投げた。
「行ってください!私にはこちらでやるべき事が……適材適所と言うやつです!」
少尉の固い決意を胸に首肯した私は、赤きフェラーリに搭乗すると——
今まさに激戦の最中である帰るべき場所へ、早馬を飛ばす如く向かったのだった。
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