第51話 海中の激突!アクア・ドゥラギックモード!

 救世の当主界吏が放ったゼロ距離気孔術奥義。

 しかしそこは観測者を名乗る大海の巨躯ノーデンス――機体をひねり距離を取る。

 見知らぬ戦闘術を相手にしようと難なく対応してみ見せた。


 が――その海原を統べる王とも言える巨躯眼前……目を奪う光景が襲う事となる。


「そうか……!それこそが観測者たるアリス嬢がもたらす技術の恩恵――その一端と言う訳か!カカッ……これはちと気合を入れんと行かぬか!?」


 大海の巨躯が白翁の巨人内から目撃した星纏う竜機オルディウスの姿。

 それが今、青き大型支援戦闘機 アクア・ドレッドを換装した事で変容していたのだ。


 竜機機体を包む様に現れた水の衣を思わす半物質化したエネルギー膜は、流体力学上に於いての海中推進力を高める形状。

 機体カラーリングも深い青を基調とした姿へと変容し――手にした唯一の近接格闘武装であったアメノムラクモも、新たな新武装へと換装されていた。


「機体の状態は想定通りだったが……ウィスパ、これは何だ!?まさかこの形態での武装って訳か!?」


 当然機体のインターフェイスとして活動する星霊姫ドールは、アクア・ドレッドを操縦する少女――シンボルに〈水〉を頂くウィスパニア・ニュートである。

 救世の当主との初顔合わせは頼りなさを見せたが、それは目覚めたばかりの慣れぬ環境故であった。


 マリンブリーの双眸が輝く表情は、両の髪留めで顕となる額下で一層輝きが増す。

 左右に分けられた薄い碧の御髪は陽光に照らされた水面の如し——体躯から面持ちまでが水を体現するオドオド系少女である。


 マスターとなった当主のいたわりを込めた面持ちに、ようやく本調子を見せ始めた。


『イエスなのです!この様な戦況……海中と言う場面での攻撃手段は限られるのです!故に水圧で勢いを殺されず、且つ突撃力と攻撃力を併せ持つ兵装——』


『それは……立ち塞がるあらゆる苦難を貫き通す——最大の攻撃となり得るのですぅ!』


「へへ……マジかよ、熱いじゃねぇか!どの道打つ手がないなら何でも来いだ!それが例え螺旋を描く……いや?違うな——」


 その意思は救世の当主へと伝播し……さらに星纏う竜機オルディウスが今手にする武装の唯一無二となる攻撃手段が、なお当主の魂を煮えたぎらせた。


「武装名称〈アクアリア・D・ブレイカー〉……即ち——見せてやろうぜ、星霊姫ドールが生命の守り人たるその証をっ!」


『マスター……!はい、なのですっ!』


 水の少女の涼やかな面持ちから放たれた、熱い意思を代弁するかの救世の当主の言葉。

 彼の想いはそのまま少女の心すらもたぎらせる。


 そして海洋の王眼前にそびえし……救世の当主と水を現す星霊姫ドールの想いを束ねて咆哮を上げた。


「オルディウス……超水竜機形態アクア・ドゥラギックモード——推して参るっっ!!」


『カカッ!相手にとって不足なし……参れ、小童こわっぱ!』


 互いに大海原を背に纏う化身がケルト海海中で激突した。



§ § §



「局長っ!先ほどの閃光はこのヒュペルボレオスへと届き——程なく、残りの星霊姫ドールが全て目覚めたのを確認!この機関に於ける、現状最高レベルの防衛システムが起動しましたっ!」


「ああ、しかとこの目で確認したよ!そして……よくやった、シエラ少佐!ようやく彼女との繋がりを取り戻せたな……!」


 盾の大地ヒュペルボレオスへ辿り着いた閃光直後——

 響いた待ち人よりの通信は、反撃の狼煙となる。


 作戦司令室大モニターを占拠した、罪を超え——大切な友人との絆を取り戻した少佐の姿。

 その凛々しくも前を真っ直ぐ見据える面持ちには、もう機関員から距離を取り続けたあの孤独なる影など欠片も存在していなかった。


 それは同時に、その姿を視認した者達へと伝搬し……やがて勇気と希望となって浸透して行く。

 まるで言わんばかりに——


『ありがとうございます、慎志しんし局長。これも局長を始めとした、ヒュペルボレオス機関員皆のお陰です。』


 贈る言葉は柔らかなる表情から。

 さしもの局長をしてその見た事も無い笑顔にどぎまぎさせられた。


 しかし今は窮地と、気を引き締めた盾の局長慎志——今こそ巻き返しの時と指示を飛ばした。


「ではシエラ君は早急に当機関への帰投を!これは予想ではあるが、あの界吏かいり君への筋を通す兆候が見られる邪神らだ。君がここへ来るための輸送機に手を出す事も考え難い。」


『了解です。局長も想定してはいると思いますが、こちらもあらぬ横槍が入った所。それをしのぎ帰投します。』


「だろうな——だがすでに傘下となった対抗勢力も動いている以上、そちらは任せるしかあるまい!ではユイレン君、クーニー君……そしてシャウゼ君は星霊姫達ドールズと連携してエルハンド卿を援護だ!」


 続く指令は巻き返しを狙っていたオペレーター三人娘にも伝わり——


『了解っす!さあ、……反撃の時来たりだぜぇ~~ぶっ壊せ、この野郎っっ!!』


『クーニー!?暴言は禁止!了解です局長、こちらも目覚めた二機のドレッドノートを確認——共に卿の援護に当たります!』


『……あ~~早く寝たいからさっさと終わらせる~~。』


『ちゃんと終わらせてから寝てよね!?』


 焦燥から一転した三人娘へ士気が戻る。


 彼女らが篭る各遠隔誘導ポッドモニターへ映り込む、二機のドレッドノートの姿はあの星の少女アイリスの如き頼もしさを滲ませていた。


 次いで盾の大地ヒュペルボレオスへ飛ぶ通信は防衛線を下げた聖霊騎士オリエルよりのもの。

 盾の局長も即座に応じた。


「局長、オリエル卿より通信です!」


「うむ、こちらに回してくれ!」


『こちらオリエル・エルハンド!機関の制空兵装と大型戦闘機……その指揮を私に移譲できぬか!?貴君らは今、直接の戦闘指揮をこなせる少佐が不在の状況だろう——』


『加えて……散発的な防衛より、明確な指揮の元に動く方が防衛率も上がる!』


「願っても無い提案だ!私も研究局管理専門としてここを任された身……その分シエラ少佐に甘えすぎていた点もある!頼めるか!?騎士殿!」


『無論だ!元より機関への正式な出向を申し出た今——この身で出来得る事なら何でもやる所存!任されよ!』


 言うが早いか盾の局長との通信を切断した聖霊騎士は、天使兵装メタトロン盾の大地ヒュペルボレオス上空へ飛来させ——


「制空兵装オペレーターと、二機の戦闘機に乗る令嬢へ!これよりこの地球防衛の最後の砦を守るため――暫しの間で構わぬ、こちらの指揮通りに動いて貰いたい!」


 響く通信は本来多くの聖騎士団を纏めていた部隊指揮のそれ。

 適材適所を見事に行く聖霊騎士の声は、三人娘と二人のドールへ誠実なる咆哮となって伝わった。


『『りょーかーい!騎士様何でもどうぞ~~!』』


『『『エアリアルオペレーター了解!』』』


 次々響いた復唱を皮切りに、天使兵装を中心に——残る機動制空兵装に加え二機のドレッドノートが戦列を組んだ。

 その様相は、闇の軍団を相手取る天使の大部隊を彷彿させた。


「では各機、私が穿つ線上を中心に残党を掃討!戦列すら組まぬ異形の群れを、戦列を組んだ我らで掻き回す!奴らがでくるならば、こちらはで迎えてやれ!」


ほふるぞ……この邪神の尖兵とやらを!!」


 そして——

 天使兵装メタトロンを中核に据えた天軍の如き防衛隊が、未だ群がる邪神の尖兵中心を広域に渡り貫き……盾の大地ヒュペルボレオス上空へ爆轟を撒き散らした


「……あとは、この機関内部だな!聞こえるか――ライトニング君にマグニア君、だったな!?」


『聞こえているよ?ジェントルメン。』


『こちらのアトラック・ナクアに関しては、ご心配には及びませんわ。すでに残る物も無力化した所ですので。』


「ああ……反応を確認した!感謝する!それとそちらの研究チーフの容体は確認出来るかい!?」


『そちらも問題なくってよ?私の持つナノマシン型治療システムで傷は塞いだ所ですわ。けれども私のは本来の生体治療用と異なるため、ウィスパニアのナノマシン治療か本格的な医術的処置を推奨致します。』


「重ね重ね感謝する!もう星の守護者たる星霊姫達ドールズには頭が上がらないな!」


 小型戦闘機体タケミカヅチ内で重傷を負うも、難を逃れた残念チーフの無事に安堵を覚える盾の局長。


 最後に……戦闘司令室大モニターを占拠した、海中を駆け抜ける機影を見やる。

 体躯が倍以上あろう白翁の巨人ノーデンスを相手取るは——星纏う姿から一変した、姿

 その腕部に海洋という水圧の壁を貫きながら押し進む、鋭どき回転衝角をひっさげ巨人を一撃……また一撃と圧倒していた。


「ふっ……海原を味方に付けた水竜——いやっ?一角竜とでも呼ぶべきか?だが界吏かいり君——」


「ここからが正念場だ……。守るぞ、我らマスターテリオンで。この蒼き地球の未来を!」


 局長からすれば身内の若衆であり、羨望抱く新進気鋭。

 救世を託された草薙 界吏くさなぎ かいりへ……惜しみないエールを送りつつ、戦況を見守る機関管理局長がそこにいた。

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