第50話 竜機換装!水竜装填!

『カカッ、どうしたどうした!この程度か草薙の若衆!』


「なろっ……調子に乗ってやがんな、髭ジィさんよ!」


 白翁の巨人ノーデンスの止まぬ突撃が、救世の当主界吏星纏う竜機オルディウスを襲う。

 海上を押さえる二柱の邪神も、姿の見えぬ竜機へ手当たり次第の攻撃を敢行。

 実態弾を中心に海上から攻め上げるそれにより、当主はさらなる不利な形勢へ投げ込まれた。


『マスター、機体の外部ダメージが増大しています!機体出力もドレッド側補助生成を上回る消費が——』


「ああ、確認した!すまねぇな、アイリス……俺も見通しが甘かった!……くっそ——本当に容赦がねぇな、髭ジィさんよぅ!!」


 外部への通信所か、同じ機体内でインターフェイスとして活動する星の少女アイリスとのやり取りすらも疎かになり始める。

 それでも精一杯の労りを込める当主の言葉が響いた星の少女は、力になりたいとの面持ちで眉根を寄せた。


 刹那——

 星纏う竜機オルディウス内モニター……さらには天使兵装メタトロンに、盾の大地ヒュペルボレオスで奮闘する者達へ向けた通信が映像にて鳴り響いた。

 そこへ映り込んだ人物へ——知る者皆が安堵と歓喜に包まれる事となる。


『こちらシエラ!界吏かいり君にエルハンド卿……そしてヒュペルボレオスで戦う全員へ通達します!現時点を以って、円卓の騎士会ナイツ・オブ・ラウンズ機関を始めとしたアリス傘下にある英国の防衛勢力全てが我らの指揮下に入ります!』


「……シエラさんっ!?ははっ……やったじゃねぇか!なあ、アイリス!」


『はい……はい、マスター!』


 それは思わず歓喜に打ち震えるほどの通信であった。

 かの罪超えし少佐シエラが幾度となく挑み、成し得なかった観測者との交渉。

 贖罪を抱えたまま何度となく拒絶され……その度にさらなる重圧に襲われていた彼女。

 だが今、モニターに映る少佐の面持ちは凛々しく……そして晴れやかなる様相。

 一つの大きな壁を乗り越えたそれであった。


 救世の当主が歓喜のままに放った言葉へ、今までにないほど表情を綻ばせた少佐は告げる。

 眼前に舞う邪神の試練に対する防衛作戦が、新たなるフェイズへ入ったその旨を——


界吏かいり君、私はこのまま可能な限り急いで機関へと戻ります!その際、何かあれば移送車両からの指示を送りますが——』


『すでにアリスから受けた機関技術制限解除に合わせ、あなたへの援軍が向かっています!じきに通信で確認が取れるでしょう!』


「援軍……は良いんだが、俺は今海中にオルディウスを押し込まれた状態だぜっ!?」


『そのための援軍です!ですから界吏かいり君……そちらは頼みますよ!?』


 響く通信へ苛烈なる現状を伝えた救世の当主へ、頼れる者への信頼と……想い人に寄せるはかない恋心を乗せた視線を贈る罪超えし少佐。

 今まで見た事のない女性らしさを押し出すその視線に、紅潮しつつもしかと双眸を見据えた救世の当主。


 その二人の淡い空気に割り込む別方面の通信が、竜機コックピット内へと木霊した。


『はわわわっ!?目覚めていきなりドレッドの海中航行は、ハードすぎるのですぅーーっ!?』


『ウィスパ……ウィスパね!マスター——只今私達への援軍が到着しましたっ!』


 窮地である海中の戦場へ響いた、いささか頼りない雰囲気の通信へ——星の少女が勝機見たりと通信を送る。

 程なく通信を送った元となる、テラーズ・ドレッドに酷似した影がモニターへと映し出された。


 それは——



§ § §



 決して予断を許せる状況じゃないのは分かってる。

 けれど響いた声は待ち望んだ物。

 同時に自分でも驚くほどに、その声へ親しみを覚えていたのを自覚した。


 恐らく意識し始めたのは、彼女が決意のままアリスの元へ向かった時——あの

 当然そんな思いは初めてだったけれど、今ならはっきり分かる。

 俺とは違う宿命に翻弄され、そしてそれを乗り越えた彼女に……シエラさんに好意を抱き初めていると。


 響いた声で想像以上の歓喜に打ち震えたのが、自分でも理解出来たんだ。

 きっとそれは間違いではないはずだ。


 そんな思わず描いた実に不謹慎な思考を振り払い、響くもう一つの声へと声を投げる。


「援軍ってのは君かっ!?」


『はひっ!?ううう、ウィスパは……あのあの——』


 するとアイリスの時とはまるで違うあたふた感を覚えた俺は、思わず笑みが溢れ……慌てる幼い声の主を落ち着かせる様に言葉を続けた。


「まずは落ち着け。いいか?大きく深呼吸……それからゆっくりでいいぜ?」


『お……お気遣い感謝するのですぅ。すー……はー……失礼したのです。ウィスパは、ウィスパニア・ニュートと申すのです。これよりマスター界吏かいり様の支援をさせて頂くのですぅ。』


「ウィスパニア……ウィスパか。よろしくな?って——髭ジジィ、自己紹介の途中だ!邪魔すんな!」


 慌てふためいた少女は深呼吸と共に落ち着きを見せ、マリンブリーの瞳を輝かせる。

 体躯はアイリスに近しいものがあるも、身に纏うゴシック調ドレスは深海を思わせる深い紺色。

 さらには……テラーズ・ドレッドに似た形状の大型支援戦闘機も同様の深い青を纏う時点で、援軍と言った意味があらかた理解出来た。


 その青き少女の自己紹介中だろうと問答無用に攻め上げる神機・ノーデンスも、すでに俺達に近付く機体に気が付いている。

 この邪魔立てが、それとの合流を阻止するたぐいと悟るのは容易だった。


『カカッ!ようやくアリス嬢の認可の元に援軍が到着した様だが……大型戦闘機如きの援軍で屠れるこのノーデンスではないぞっ!』


「……アリスの事を知ってる、か。なるほど……邪神の企てがなんとなしに読めてきたぜ!だが——」


 突撃に合わせて通信を叩き付ける髭ジジィが零したそれ。

 相変わらず奴らの表層意識は、もやが掛かって真意を悟れずじまいだが——

 それでも今までの襲撃と奴らが攻撃目標としている俺達の立ち位置で、少なからず真相が読めてきた。


 けれど今はまず状況打開が優先と、二人の可憐なお嬢へ通信を繋いだ。


「奴らは少なくとも、俺達の取り得る戦術が未だに知見の範疇にはないと見た!ならばアイリス、そしてウィスパ——俺達の反撃の時だぜ!」


『『イエス、マスター!』』


 俺の咆哮に二人の星霊姫ドールが凛々しき復唱を返してくる。

 竜星機オルディウスのモニター上には、当然今俺達が可能な反撃手段が映し出されていた。

 視認したデータに従い、必要な指示を二人に飛ばして行く。


「アイリス、テラーズ・ドレッドをパージ!その後海上のクトゥグア及びハスターを牽制して、浮上できる算段をっ!」


『はい!ですがドレッドをパージした直後は、機体メイン出力が大幅に低下します!ご注意を!』


「了解だ!それじゃ、ウィスパ……俺とアイリスのタイミングに合わせて〈竜機換装〉へ移行だっ!……慌てず、落ち着いてやればいいからな!」


『イエスなのです、マスター!お初のご指示がこの様にお心遣いに溢れ……ウィスパは感激なのですぅ!』


「ウィスパがアイリスと同じ星霊姫ドールなら、素敵な家族も同然だからな!では行くぞ……竜機換装——っ!!」


 二人の意思を確認した俺は、竜星機オルディウスと各種ドレッドノートが揃って初めて叶う新たなる兵装戦術を展開する。

 が……そのためのドレッドパージを見逃すほどに、眼前の髭ジジィが甘い訳はなく——


『カカカッ……よもやワシの前でその様な無粋を働くとはっ!機体出力がこちらでも確認できるほどに低下しておるぞっ!侮るなよ、小童こわっぱがっっ!!』


 高圧水流を後方へと吐き出し、超弾道で弾き出されたミサイルの如き突撃が猛撃して来る。

 それでも俺は、すでに換装準備に入る青きドレッドノートを視界に入れている故身動きは取れない。

 否——取らずとも、一度程度であれば向かって来る目標を止める術は準備していた。


 刹那——海中を衝撃波と共に伝わる振動が、海面にさえも巨大な水柱を生む。

 竜星機オルディウスと交差した神機・ノーデンス。

 奴が突き出す三叉戟トライデントを脇で抱える様に受け止めた俺は、竜星機オルディウスの拳を奴のメインカメラ部へ突き出し——


『何……とっ!?』


「俺の海中での戦術が、ただ距離を開けて打ちあうだけしかないと甘くみたな!?ノーデンスとやらよっ!!」


 先に燃え女へ食らわせた〈発勁〉を使い神機・ノーデンスの視界を奪う。

 けれど、さすがの髭ジィさん――燃え女すらまともに食らったゼロ距離のそれを強引に機体をひねって回避する。

 攻撃だけではない……防御や回避に至るまでが強者感を見せ付けて来た。


 されどこの〈発勁〉は

 目くらましに使い――


 実行するは俺達の反撃の証となる竜機換装。

 俺の攻撃に合わせた様に海中で近接した青き機体……機体内モニターに表示された〈アクア・ドレッド〉との換装を果たす。


 その直後竜星機オルディウスは、アイリスのテラーズ・ドレッド換装時と異なる様相――の姿へと変貌を遂げるのであった。

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