決戦!ノーデンス軍と救世の使者達!
第42話 迎え撃つは〈絶望〉
「アイリスっ!カタパルト射出と同時にテラーズドレッドを換装!すぐに奴ら――燃え女と爆風娘を迎え撃つ!」
『了解です、マスター!換装準備、滞りなく進めます!』
通信を確認した時、来たかとは思った。
確かに奴ら――燃え女に爆風娘の襲撃では手抜きとまではいかないが、あちらの譲歩とも取れる手加減が存在していた。
奴ら邪神が本領を発揮すれば、あれだけの戦力――地球を根絶やしにするなど造作も無いだろう。
そこに引っ掛かる物を覚えていた俺は、努めて奴らの思考が俺と
何より邪神の尖兵が身代わりとなって齎すのは、紛れもなくこの地球で望まぬ非業の死を遂げた数多の命の叫び――地獄の底より何故我らは命を落とさねばならなかったのかと言う、怨念にも似た嘆きそのものだった。
けれどそれを邪神共が運んでくる
ならばそこにこそ、地球が邪神の侵攻を受ける理由が存在すると……今ある情報の中から推察していた。
「ったく……敵の目的も何も掴めてない状況――おまけにこちらの戦力が質でも物量すらも未だ不足してるってのに!ここに来て大軍勢のガチ侵攻とは付いてねぇ!」
『ケケッ!ガタガタ抜かしてねぇで、さっさと発進しろや救世主殿!こちらの
『それで奴らを屠れねぇってんなら、その機体から引き摺りおろしてやんぜ!?』
「分かってら!チーフもありがとよ――ではオルディウス……イグニッション!」
いろいろ余計な事を考えていたら残念チーフからの野次が飛んだ。
そうだ――こんな事態を想定して、彼女にまで無理を押し付けたんだ。
今さら御託を並べてるヒマなんて欠片も無いのは百も承知。
すぐに気持ちを切り替えて、カタパルトからヒュペルボレオスの天空へと、
程なく超遠距離光学映像に映り込んだそれを見やり――流石に想定外の物量に圧倒されそうになる。
「……おいおい、とんでもねぇ数だなこりゃ。尖兵だけで蒼いはずの空が真っ黒に染まって見えるぜ。なるほど……尖兵にはナイトゴーントにミ=ゴまで動員して来たか――」
「敵本陣旗艦っぽいので仁王立ちしてるヤバイのは一先ず置いておくとしても、これはちとまずいぜ。」
大小様々な邪神生命が入り乱れる中――警戒を向けたのはダゴンとアトラック・ナクアの個体名称を持つそれら。
機関から送信されたデータ上の特性を考慮した結果……先の残念チーフへの依頼が悪い方にデジャブを呼ぶ。
「ダゴンは海上型の機体……そしてアトラック・ナクアは――くそっ!遂に本陣まで切り込む手合いのお出ましかよっ!」
それらは明らかに、ヒュペルボレオスを直接的に狙うための部隊。
邪神生命としてのランクは燃え女らから劣るが――前線に立つのが俺のみの機関からすれば、それは本丸を脅かす脅威以外の何物でもなかった。
だが――意識が危うさしかない
『当主、我らは
『と言う事だよカス当主!速やかにボク達の餌食となるがいいよ!』
「やっぱり手加減とかしてやがったのか!?お前らっ!そいつはとんだ侮辱だな……いいぜ、相手になってやるよ!」
二人の邪神娘の意識すらも流れ込む。
奴らは何かしらの目的を以ってこの戦いに望んでいるのは確かだ。
だが――
その本質を探ろうにも……俺の能力を以ってしても見通せぬ、深淵の
ならば今はそれを後回し――少なくとも、眼前にガチ本気で突っ込んで来る邪神娘共を討ち取らなければ先も何もない。
ちょうどモニターの端に、申し合わせた様な援軍到着も見た所……相手にとって不足など無い。
「早かったじゃねぇか、オリエル!今度はちゃんとヴァチカンからの正式要請を受けて来たんだろうな!?」
『その様な余裕をかましている場合ではないだろう、
すでに
モニターを占拠するは、すでに友としての道を歩み始めた
そうだ――
今の地球にとって、俺達が最後の砦……最強の武力の二柱なんだ。
俺達が敗れれば世界が終わる。
俺達は力無き民の変わりにその武を奮い、眼前の恐るべき大軍勢を屠らなければならないんだ。
「ああ、その覚悟確かに受け取った!やってやろうぜ、オリエル……俺達がこの地球にお於いてのなんであるかを奴らへ示してやる時だ!」
「アイリス、テラーズ・ドレッド換装!では、草薙流閃武闘術 皆伝
そして刹那の永遠とも取れる防衛戦が……この時より幕を開けたんだ。
§ § §
貝殻の旗艦甲板上。
仁王立つ影の中で、
視界には澄み渡った蒼き天空と……その蒼を映した果てしなき大海。
巨躯の存在を体現した様な世界が映り込む。
「これがアリスが辿った人生数億年の守護の賜物……何と美しき事か。数多の生命の息吹が其処彼処に芽吹いておる。」
今大海の巨躯が率いる軍勢は、人類の誇る最強の武力とそれを擁する
が――
それが無かったかのような面持ちで、巨躯は言葉を紡いでいた。
白翁の巨人内モニターに映し出された映像は、張り詰めた戦場のそれではない――蒼き大地のあらゆる生命の営みが映像として延々と流れていた。
「大地を闊歩する獣、大空を舞う翼鳥、大自然を守る草木……そして海原を悠々と舞う海洋生物。これがすべてアリスが守り続けてきた、この宇宙に於ける神秘そのもの――」
「彼女が母なる存在と
大よそ大戦に望む体とは見えぬ語りで静かに時を刻む大海の巨躯。
だが一転した映像で、眉を
憤怒すら浮かぶ双眸が睨め付けるのは――
幾重にも立ち上る黒煙と焼き払われる森林で、追い立てられる獣達。
爆轟に身を焼かれる人々に、焼け野を彷徨う親を失った子供達。
自然に帰らぬ人工物を飲み込んで絶命し、そのまま無残に海岸で横たわる海洋生物。
大気が汚れた結果産み落とされた、自然を次々破壊して行く大規模災害。
そして――
人も、街も、生命も、形ある全てを消し飛ばす巨大なる原子の炎。
そこまで視認した大海の巨躯はギリリと歯噛みする。
観測者の少女が生み、育て、守り続けた数億年の輝きが……たった千年程度の人類史によって破壊されて行く惨状をその目にして――
「これほどの業を背負い戦うのがここに集う心ある者達だけなどと、誰が納得出来ようか!この者達にいったい何の責があろう……人並みの業は背負って
「だがこれは――この地球を蝕み続ける業を背負うべきは、この星に生きる人類全てであろうっ!!」
巨躯は猛烈なる負の
それは怒りの矛先を失った様に、ただ大気を焼き焦がす。
程なく今しがた生み出された憤怒を覚悟に変えた大海の巨躯は、ようやく今己がいる戦場へと思考を戻した。
それは人類の命運と――己の命運を天秤にかけた未来へと向けられる。
「それでもお主達……戦う意志を抱きし者らが、我らに立ち向かうと言うならば――ワシも覚悟を決めねばなるまい。観測者に
双眸がギラリと輝き――
モニター内に映り込む、すでに交戦状態に突入した
「クトゥグア、ハスター。よいか……想い残す事の無い様に立ち回れ。この様な輝けし
「我らでなんとしても、この人類共の目覚め招来の時を齎す!宇宙の因果は人類がいてこそ、その歯車を正常に廻す事が叶うのだっ!」
大海の巨躯の咆哮は、通信を――そして思念波を通して二柱の邪神へと届く。
映る映像では、供に決意宿した娘達が凛々しき双眸を返していた。
巡る因果は人類と邪神を望まぬ戦いへと引き摺り込んで行く。
その遥か高空……大気圏上に止まった異形の巨影の中。
くつくつとほくそ笑む、
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