第41話 天を引き裂くは、大海の旧神
「各々抜かりはないな?ワシが言うた通りに事を運べ。」
『分かった。まずは私とハスターで当主と天使を相手にする。』
『ボクも準備は怠り無いよ?取り合えずカス当主とバカ騎士は、ボクとクトゥグアにお任せさ。』
すでに蒼き星、衛星軌道に達するそれは異形の大軍勢。
先の
「言っておくが、ワシらはあくまでワシらのやり方を貫き通す。ブラックウインドめがどう思考しようが……ワシらの相手取るのは戦う意志のある者のみ――」
「即ち、蒼き星を救うと言う使命を負うあのヒュペルボレオス――かつて邪神が住まう大地であったそこで今……ワシらと対峙せんとしておる者らのみが相手じゃ。」
『言われるまでもない――私はあの当主が通した義に
『ああ――あのブラックウインドのやりそうな真似はボクもごめんだ。何考えてんだか分からんカス邪神……そのやり口を思い出しただけでも反吐が出るからね。』
異形の女神と蠢めく黄衣内で決意を固める邪神の娘ら。
モニター越しに見やる
向けた足は貝殻の旗艦内格納庫とも取れるそこ。
巨躯の視界に映るは、半物質化した帯状の白色エネルギー体を全体に
白き帯を衣の如く巻き付け、片側剛腕には
邪神らの異形さから僅かに遠ざかる荘厳なる様相は、ケルト神話のヌアザとギリシャ神話のポセイドンを集合させた姿とも取れた。
視界には白翁の巨人。
思考にはかの竜の巨人。
大海の巨躯はそれが相見える瞬間を想像し双眸を閉じる。
「確か、竜星機オルディウス……だったか。あのクトゥグアが熱を入れるほどに武に長けた者――その機体然り、搭乗者然り。」
「この様な観測者としての命さえなければ、純粋に手合わせも叶ったであろうな。だが――」
閉じた双眸へ深淵の果てを映す大海の巨躯。
そこには映像ではない、高時空間を駆けて伝わる霊的な胎動を感じ取っていた。
伝わるそれはまさしく想像を絶する大軍勢。
今巨躯が有する大軍勢など遠く及ばぬ胎動。
現在地球圏に迫りつつある黒き魔王の有する軍勢のまだ後方……門なる神と称された存在の背後に――である。
「ブラックウインドがヨグ=ソトースをこの太陽系へ展開すれば確実に、外なる神の本隊が押し寄せる。かの大邪神 クトゥルフが、アザトースの彼方よりな。」
そして静かに双眸を開いた大海の巨躯は蒼き星のありし方を一瞥し――
「我らノーデンス軍との戦い……見事乗り越えて見せよ、大罪に包まれし生命よ。そして――」
「アリスが愛し続けた数億の星の歴史と供に……それを見事――守り抜いて見せよ!」
今より剣を交える人類の救生者達へ塩を贈る様に、期待のエールを叩き付ける巨躯がそこにいた。
§ § §
『いいかい?集積したデータで、機関防衛用の対空兵装は可能な限り強化したが――』
「ウイっす!あたしらも局長からのデータ……コンバート完了でいっ!」
「……ふぁ――こちらも完了。そして眠い……あれ?」
『これだけの防衛設備稼働がここまで後回しになる非情事態――だがやっと全設備の可動に漕ぎつけたぜ、ケケッ。おいユイレン……お前さんらは今後それを考慮して――んあ?』
防衛設備状況を淡々と伝える残念局長に、黙々と作業に没頭する姿が珍しいお騒がせ三人娘の
だが――その任務上の会話があらぬ者の所で途切れてしまう。
「スー……んん。って――あれっ!?私、今寝て――」
「おお……あのユイレンが任務中に居眠りたぁ――」
「何?ついに私とのコラボにでも目覚めた訳?ユイレン。いざ、ウエルカム・トゥ・ドリームランドへ!」
「ばっ!?そんなコラボとかしませんっ!て言うか、ドリームランドとか縁起でもない――それは邪神の巣窟の総称でしょう!?バカな事言ってないで、任務を
「「寝てたのはユイレンだけどね~~。」」
「う、うう……うるさいっ!」
『……漫才はいいからあたしの話を聞けや、お前ら(汗)』
それは度重なる防衛任務から来る疲れ度合いが、回復しきれぬままに根を詰めていた
それを目撃するや
当然であった。
そこで捌ききれぬ尖兵の大半が
「ユイレン君、これが終われば三人で一休みし給え。君達の疲労は他の研究員と比べても群を抜いている。大手を振って休んだとて、誰にも文句は言わせないさ。」
「すいません、局長!少し詰めたら休憩に入ります。」
「おっしゃーーっ!ちょっと息抜きにレースゲームでもしてくっかなぁ、あたし!」
「なら私は寝る。文句ないよね?ユイレン。」
「……いいわ。ちゃんと休憩しましょ、二人共。」
「「あれ?普通にOKされた??」」
いつものてんやわんやな問答も、今となっては緩やかな日常のひとコマ。
それを知る真面目系少女も否定する事さえ出来ず――予想に反して了承を得た二人の方が疑問符を躍らせた。
そんな機関員が誇るお騒がせ三人娘の、並々ならぬ貢献を讃える様に一瞥する
願わくばその一時すらも脅かす事態が訪れぬ事を一心に願いつつ――大モニターを注視していた。
――願わくば、そんな一時を送らせて欲しい――
その願いが直後に鳴り響いた警報アラームで、遥か地球の彼方へと弾き飛ばされる事となる。
「――っ!?局長、地球衛星軌道上の監視衛星から緊急警報――邪神の軍勢が大気圏へ突入したと反応がっ!」
「くっ……頑張る娘らにささやかな休暇も与えられんのか!?敵の数を算出――同時に上位邪神が存在せぬかを確認せよ!」
響く警報。
モニター群を占拠するワーニングの文字羅列。
されど
幾度かの危機を乗り越え生まれた速やかな情報処理錬度は、ただの研究員とは一線を画していた。
だが――
視認した状況が、今までとは桁が違う事実に至るまでには……僅かに時間を要する事となる。
「……どうした!?状況報告を――」
速やかさが冴え始めていたオペレーターが絶句した様に言葉を詰まらせ、そこに只ならぬ不穏を感じた盾の局長も声を荒げる。
そしてそれは告げられた。
今までの自分達の健闘を台無しにする様な、絶望舞う非情なる現実が――
「――邪神軍の総数……先のハスターが襲来した際率いた数の、優に数倍に上る尖兵を……確認。」
「なっ……!?」
「尖兵のナイトゴーントに混じりミ=ゴの群れを検知。さらに上位邪神クトゥグアとハスター背後、ネクロミノコン参照のデータに間違いがなければ――大海の旧神 ノーデンスの反応が……。加えて――」
「上位からは下がるものの、邪神生命となる存在を――それも複数種 複数個体確認……しました。個体名称はダゴン、そしてアトラック・ナクア……とてつもない大軍勢ですっ!」
愕然とし、席を立った盾の局長。
その視界に映るモニターの全てに、今までの脅威など小手調べだったかの如き大軍勢が占拠していた。
映る画面の中央へ構えるは貝殻を模した戦闘艦を思わせるそれ。
さらに上甲甲板とも取れる場所へ、腕部に
それは正に――大海の巨躯 ノーデンスが擁する邪神の大軍勢であった。
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