第9話 星の巡り合わせた者達
一つは運命に翻弄され、そこから逃走を図る事で己が心を偽り続けた者。
一つは己が加担した重すぎる業に耐えられず、贖罪を果たす幻想に駆られた者。
その二つの魂が今……遥か数億年前の
それは竜の目覚め。
星を守護すべき定めを背負いし、竜星機と呼称される地球に於ける最大戦力が目覚めの咆哮を上げる時——
訪れたる瞬間は眼前に迫る。
宇宙の深遠より来る観測者に属せし
§ § §
「
『了解!B・D・T……
『ふぉっ!?B・D・Tってまさか、ビヤーキー・ドライブ・チームの略!?マジそれ、エモいっ!そして語呂もグッジョブ!』
『長ったらしいもんね……。まあカッコはいいけど。』
『今私、備えるって言ったよね!?ちゃんと備えて貰える!?二人とも!』
『『うえ~~い。』』
逼迫した状況下。
騒がしいオペレーター三人娘は、そんな事態でも動じぬコントの様なやり取りに終始する。
が……彼女らとて人間であり、深淵の恐怖を現在モニター越しで味わう最中——直接では無くとも、そこに存在する懸念が徐々に包み始めていた。
先の英国防衛部隊所属F35Bパイロットが被った精神汚染。
それは局所的な事象などではない、深淵を相手取る際に最も危惧すべき事象でありその本質とも言えるものである。
数ある伝承を記す書物の
その多くが生きて帰らぬとも記されていた。
それが観測者に属する宇宙の彼方より訪れる邪神群——今地球への審判を下さんと舞い降りた存在なのだ。
さらに激しさを増す制空兵装と深淵の尖兵の十字砲火を潜り抜け、
「あれが……
罪に舞う少佐は機関が捜索する者として、顔立ちや形は確認していたが——元々彼との面識など無かった。
それだけに、己が贖罪を果たすに必要であった竜の機体をむざむざ引き渡す事へも
歯噛みするも彼の確保と機体譲渡は最優先であるため、大人しく機体を迷える当主へと向けた。
同じ頃——
機体モニター映像を共有するヴァルキュリアシステム・コックピット内。
人ならざる少女が、映る青年——その形ではない……本質的な面へ感応する。
「見つけた……宇宙と重なる因果を持つ者。私の……この時代に於けるマスター——」
その言葉が罪に舞う少佐に届くか否かのタイミングで、機体の全面コックピットハッチが開け放たれ——人ならざる少女が放ったそれは、舞い込む風にかき消されたのであった。
§ § §
異変渦巻くロンドン郊外。
すでに憂うSPの表情を目にした俺は、そのままとんずらする様な不精にもなれず……なし崩しに話を聞く羽目となる。
けれどその内容が、あまりに突拍子も無いものである事は俺としても想定の遥か彼方であったが——
「我々が命を受けたのは、実の所日本は守護宗家へ
「はっ?いや待てよ……お前達が俺を連れ戻す以外に一体どんな要件があるって——」
「はい……。実に急を要する異例の事態ではありますが——」
謎の回答に首を
そしてそれを見越した様に周囲へ突如として吹き荒れる風。
しかしそれはただの風などではない——言うなれば垂直離着陸機がばら撒くかの上方からの圧力。
まるで来たかと視線をその圧力の先へ向けたSPに、釣られて視線を向けた俺の視界が巨大なる影に覆われる。
一瞬眼前を埋める隔壁が現れたかと錯覚した俺の思考が、それが構造物——否……巨大なる人影だと認識した時——
SPがまさに想定をはるか彼方にぶっ飛ばす言葉を突き付けて来た。
「あれはこれより
「待て待て!?俺に譲渡って……まさかこれに乗って戦えとか言うオチじゃねぇだろうな!?」
「そうよ……!これがあなたの——
英国を覆う
謎の幹線道路封鎖と逃げ惑う英国の民。
そして眼前に迫る人影——もう俺はSPの言葉で悟ってしまった。
これはただの巨大構造物でも、巨大な人影でも無い——目方で30mを超えるその姿は……紛れも無くロボットのそれだ。
そう認識した俺の聴覚へ響いたのは……凛々しくも——何処か悲痛を塗した女性の声。
響く先は、今俺が目撃した圧力に任せ地上へ下降せんとする巨大なるロボットから。
よく見るとかなり上方に位置する胸部と思しき場所が、コックピットハッチよろしく三方へと隔壁を開け放ち——屈む形で腕部が俺の眼前へ迫ると、一人の女性がその腕を伝い降り立った。
片側ポニーでまとめるブラウンの御髪に、鋭さと悲痛を込める双眸はキャメルブラウン。
確実に俺からも年上であろうその姿は、其処彼処に軍人として身に付けた規律が姿形となった様な厳しさを纏う。
傍目でも訳あり軍人と想像出来た。
何より自身の能力故、すでに言いようの無い悲痛が……彼女から溢れ出し——俺の精神を掻き
「あんた……何者だ?」
口から出たのは「誰か?」では無く「何者だ?」。
訳ありな点を含め、只ならぬ尋常ではない雰囲気が質問の内容へ変化を与える。
そして返された言葉は——実に味気なく……冷徹とも取れる感情希薄な名乗りだった。
「私はシエラ……シエラ・シュテンリヒ。英国古代技術研究機関への出向であり、英国統一防衛軍に所属する者よ。」
「シ…エラ——さんか……。」
冷徹さを除けば目も眩む様な美女——それがすでに感じた只ならぬ悲痛度合いで、俺は彼女に痛ましさしか抱けなくなっていた。
——どうやら俺の定めは、とてつも無い試練を引っ提げて……俺と言う存在を試さんと進軍を始めていたらしい。
この時の出会いが……遥か地球の未来の行く末さえ左右する、俺とシエラさん——そして観測者と呼ばれる少女と、その代理を務める人ならざる少女達との因果の邂逅の始まりとなったんだ。
§ § §
しかし依然として止まぬ十字砲火が、
「
『了解です!』
『『うえ~い。』』
「……頼むぞっ!?」
依然として緩く響く三人娘内二人の復唱。
が、さしもの彼女らでさえ表情へ焦燥を浮かべていた。
管制モニター視界に映る維持しきれぬ防衛線もあるだろう——だが彼女らへも、そのモニター越しから深淵の狂気が徐々に影響を及ぼし始める。
三隊の制空兵装が編隊を成して防衛線の盾となり、
未だ残る数十機の
『新手っ!?まずい——』
その方向より張った防衛線へ真っ直ぐ目掛けて飛来したそれは、そのまま制空兵装数機を近接戦闘による爆轟で包むと……その振り抜いた腕部より、量子振動により集束された熱光球を打ち出した。
そしてその標的は――英国ロンドン郊外へ今着地したばかりの、
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