第6話 星霊姫
英国統一防衛軍よりの精鋭は、なす術なくベイルアウトした仲間回収へと移り——英国防衛の
空母艦橋では無力感に苛まれる艦隊司令が、同胞の誇りある翼が手も足も出なかった異形の勢力……それらと拮抗する
ビヤーキーが舞う姿をモニター越しに一瞥した。
「相手が人では無いとはいえ——何と我らの無力な事だ。これはまさに戦争と言う大過に塗れた我らへの審判……なのだろうな。」
艦隊司令が独りごち……静かに双眸を閉じて、おめおめと英国女王陛下のお膝元へと帰還する。
へし折られた軍人の誇りと共に——
§ § §
英国全土へ向け、
この大地では来る審判の時の備えとし……連合国全土を守護するべく超大なる盾を生む施設を建造していた。
それを得意分野に持つ、信のおける友好国との合同で初めて起動が叶うものだ。
信を置ける霊的大儀式術を得意とする国家——それ即ち、【三神守護宗家】を有する暁の大国……日本である。
両国の古よりの親交が齎すその究極の盾は、まさしく英国最大の守りの要なのだ。
『マスターテリオンより、グランドホーン各所へ!これより対外宇宙勢力より、英国本土を防衛するため……三神守護宗家が秘術、
『守護障壁管制局――各所それぞれ、設備稼働状態を送信願う!』
「了解しました!これよりグランドホーン各所……施設稼働状況を送信します!以後の管理統制はそちら、マスターテリオン機関へと委ねます!英国を——」
「いえ……世界を頼みます!」
『……死力を尽くす——とだけ答えさせて頂きます!』
守護障壁管制局は英国機関所属の大地より
通常の
元来
「グランドホーン各所よりシステムの管理管制権が委譲されました!これよりグランドホーンは当マスターテリオンの管制下に入ります!」
「……よし!では各所ホーンの
「
程なく英国の大地へ、円柱状の鏡にも似た半透明の膜が発現した。
その巨大さたるや、連合王国全土はおろか……周囲近海までもを
しかし外宇宙よりの強襲者は、この地を襲うのであればそもそも英国と言う単一国家を襲う事自体が不可解な所——
が――巨大なる鏡を視認した
まるでそこに、穿つべき物が……否——
奪還すべき者の所在を探し求める様に——
§ § §
「(暗い……とても暗い。)」
「(ここは何処?私はどうなっているの?)」
海上に姿を現したる巨大なる影。
その施設深き場所で、薄い
否——それは魂ではない……魂を模した高密度の霊量子情報の集合体。
だが……
今その霊量子情報集合体へ向け、遥か彼方から――そしていと近くから届く神々しき声が、啓示となる言葉を投げかけた。
『おはよう……目は覚めましたか?私の分かれ身であり、代理者である者よ。』
「(ああ……あなた様は——)」
『ふふ……今は何も考える事はありません。しかし、また再び貴女の——いえ、貴女達の目覚めが必要となりました。ですからこれより——』
『まず最初の目覚めの後、速やかにお役目を代理できる様……貴女へ名前を与えます。この時代での貴女の名は——』
彼方であり此方より掛けられた啓示が、
そしてそれは、
「……アイリス。私の名はアイリス・ローディエンヌ。偉大なる観測者アリスの啓示を受けし者——私は……【
掲示を受けし霊量子情報体は、やがて一つの肉体を構成する魂の入れ物へと集合し……程なくそれが目覚めの時を迎え——
「局長!施設内より……それもヒュペルボレオス最深部——【
「何っ!?……早すぎる!まだ彼が確保出来てはいないのだぞっ!?少佐!シエラ少佐、聞こえるか!」
今まさに外宇宙勢力との交戦対応を取る司令室へと、幼き少女の声となり響き渡る。
しかし
通信にて響いた声の主である少女の目覚めの時を、
想定を上回る事態に、憂う局長が
『こちらシエラ——すでに
『目覚めたと言うならば、すぐに
「止むを得まい……!最初の星霊姫システムはコード・アイリス……残り5体のドールズは未だ目覚めぬが——」
「少佐に【
コード・アイリスと呼称される【
§ § §
遅かれ早かれ来るとは思っていた。
マスターテリオン機関の研究対象である
その記録の一節で、すでに解読された内容には——
〈世に終末が訪れる、或いはそれに相当する大過を人類が犯した時……観測者の啓示を受けし
それが、今しがた目覚めたドールズの一体と見て間違いは無さそうだが……少なくとも世の終末に匹敵する人類の大過——それを私は知っている。
忘れるはずが無い……それは私が知らずとは言え加担した、人類の傲慢が呼んだ非道なる所業だから。
「あっ……!シュテンリヒ少佐——あの……竜星機の準備はこちらで整えていますが、まだこの様な事態に慣れていないので——」
「慣れていないのは皆同じ。その様な言葉をかけに来る位なら、速やかに事を
「は……はい!申し訳ありません!では……——」
ヒュペルボレオス最深部へ向かう途中……
残念な事に——あのオペレーターとビヤーキーコントロールを兼任する騒がしい三人娘が、この機関に於ける一番の熟練である状況に嘆息を洩らさざるを得ない。
だからだろう……研究員の少女のあまりの頼り無さを見るや、心に荒ぶりが目覚めてしまう。
恐れからか縮こまる少女を見やり、いつから自分はここまで心が狭くなってしまったのかとまた嘆息を零す。
それほどまで自分に余裕が無くなっていた事に、改めて気付かされたんだ。
自虐する様に急ぐ足でようやく辿り着いた最下層。
【
すでに目覚めたその人ならざる少女がじっとこちらを見ていた。
開けた巨大な空間が上方へと突き抜け、ヒュペルボレオスの最上部へ頂く三柱の塔からの光を直接届けるそこは——神秘と恐怖の入り混じる空間。
その三柱にそれぞれ、数字の6を刻んだ古代文字と思しきスペルの羅列が光を放ち……中央に六つの揺籠を模した機械製——当然古代技術製となるカプセルが横たわる。
うち一つのカプセルが貝殻の様に開け放たれ、機械の揺籠から甦った少女が立つ。
遠目では殆ど人間の幼女——或いは少女にしか見て取れぬが、近付くにつれ鮮明に視界に映る肌と肌の継ぎ目。
しかし自然なほどに素肌を模す様は、最早現代の技術の影など欠片も見当たらないオーバーテクノロジーの産物。
それが碧眼とプラチナブロンドの御髪を腰まで流す様は、人と言われて否定など出来ぬ様相だった。
「あなたは?まだ私のマスターは現れていないのでしょうか?」
「あなたがアイリス。——コード・アイリス……ドールシステムなの?」
互いが互いに質問を送り合う珍妙な会話の後……現在問答時間も惜しい事へ辿り着いた私は——
視界に映る特殊ファイバー製ではあるも、あのアリスにも似たゴシック調ドレスを纏う人ならざる人形の手を強引に引く。
「詳しい事を話している暇はありません。来なさい!」
「い……痛いです!あなたは……せめあなたのお名前を——」
「私はシエラ……神である少女を——守れなかった愚か者よ。」
痛いと言う痛覚すら再現する技術度合いに驚愕を覚えるも、逼迫した今はそんな思考に時間を割くわけにも行かずに……私は
彼女を扱う上で最も危惧すべき重要点……それを蔑ろにしたままの、急く様な面持ちのままで——
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