―星の巡り合せた者達―

神話の始まり

第1話 神話—今よりこれから

 西暦2020年も後半に差し掛かる世界。

 未だ人類が他を認められず、互いの意見の相違から争いを消せぬ中——世界の様相は混沌を極めていた。

 その争いは通常兵器による抗争に止まらず、果てはいにしえの技術へと手を伸ばし……世界にさらなる暗雲が立ち込めようとした時——

 人類に過ぎたる技術それらの管理を行う機関より、その手を汚そうとする者へ宣言された。


『世界に蔓延はびこる抗争を主眼とし、凶器を手にせんとする者達へ告げる。ついに貴君らは、手を出すべきでは無い技術へまでもその野望に駆られた手を伸ばした。』


『——それは即ち、この蒼き地球を管理する者への反抗に他ならない。よってこれ以降の時代は地球を守護せし存在——【観測者】の掲示に従いし我ら円卓の騎士会ナイツ・オブ・ラウンズ機関による、技術管理規制を行うものとする。』


 世界へ向けてその言葉を発した機関——英国に居を構える誇りある騎士の末裔。

 アーサー家に代表される【円卓の騎士会ナイツ・オブ・ラウンズ】機関は、いにしえの技術管理制限を宣言する。

 それは後の世、人類には過ぎた技術の乱用によって世界に滅亡の危機が訪れぬ様——切なる願いと共に掲げられた宣言であった。


 その宣言から僅かの後——表向きの力である騎士会に対しての実働部隊に相当する存在が、英国本土近海……ケルト海上で巨大なる設備を構えていた。

 巨大なる施設は人工物であるが、一般的な人工島などとは一線を画す長大さに……中央部へ盾をあしらった様な、異様な形状を取る。


「局長、衛星軌道上——監視衛星に異常は特に見られません。……ふぁ~……。」


「ちょっとシャウゼ……任務中よ!?不謹慎な行動は控えてよ!——すみません局長、後で彼女には……って!?そこも……クーニーっ!」


「うひゃっ!?バレたっ!いやこれは、その……ちょっとスーパーカーが発表されたから……ね?その情報収集を――」


「あ~ゴホン。君達……もう少し緊張感を持ってくれると助かるんだがね?」


 そこは巨大な人工島の内部に位置し、その島全体を制御するオペレータールーム——しかし、英国騎士会ラウンズが宣言した様な物々しさが微塵も感じられぬ雰囲気。

 巨大な宙空投影式モニターを初め――大よそ現代レベルの科学技術を凌駕する全容は、まさに古代技術のそれ。

 なのだが……

 緊張感の無いやり取り――オペレーターの中心とおぼしき女性が、やる気の無い同僚らに翻弄され――それを見やる局長と呼ばれた男性が苦笑のまま頭を抱えていた。


「ではシャウゼ・ハイリーン……君はそのまま衛星観測を引き続き継続だ。」


「はい……了解……。」


 シャウゼと呼ばれたOP――ショートボブの茶髪に前髪をピンで留めた、おでこの眩しいやる気が感じられない女性……未だ眠気の残る表情でしぶしぶ任務を了解する。


「……(大丈夫かね、あの娘は(汗))続いてクーニー・ジアンタ。この人工島内格納庫――未だ現れぬ脅威に備え、調整備関係各所へ伝達を頼む。」


「了解で~す!では伝達に移りま~す!うんしょっと……うおっ!?これめっちゃイケてんじゃん!しかもシザースドアだし……うわやべ、ヨダレでそう。」


「――あ~……聞いているかね?クーニー・ジアンタ。」


 クーニーと呼ばれたOP――ツンツンと跳ねたアッシュブロンドを所々、筒状の髪飾りで纏めて下げる特徴的なヘアスタイル……やや肌に日焼け程度の小麦が混じる彼女、髪型では特段流行などへの関心が無いようにも見える。

 彼女は局長である男性の言葉が耳に入っているのかいないのか、己の趣味である世界のスーパーカー情報収集に関してだけには余念が無い。

 オペレートデスクに広がる車専門雑誌に埋もれ、明らかに任務そっちのけで趣味に没頭していた。


「……はぁ……まあそれではユイレン・カールソン。君は――」


「はい、了解しております。すでにこの人工島である【ヒュペルボレオス】各機関の正常稼働を確認――現在の所、想定稼働状況の60%で推移中です。有事に備え無人制空機動兵装エアリアル【ビヤーキー】各機も待機中です。」


「うむ……そちらは上々だな。以後もよろしく頼む。」


 最後は局長とやらの言葉も待たず、速やかなる任務遂行を告げるOP――ユイレンは眉に掛かる前髪と長い遅れ毛が肩を掠め、後頭部やや上でポニーに纏める赤毛。

 やや切れ長な瞳は深い茶色を宿し、鼻上のそばかすがチャームポイントなまじめ系優等生。

 このオペレーションチームを引っ張る牽引役が、皮肉にも板につく。


 そんな賑やかな和気藹々の風景が現在の日常であるここ――人工島であり、その名を真面目系のユイレンも口にした【ヒュペルボレオス】は、英国機関から世界の防衛を託された【マスターテリオン機関】の総本部である。



§ § §



『〔居たか!?クソッ……あのアマ、せっかくの研究材料を——〕』


 今もまぶたに焼き付いた——組織からの脱出。


『〔奴を逃すな!オレ達の計画には、あのが不可欠だ!何としても探し出せ!〕』


 たった一人で——私は逃亡を試みた。

 ——否、組織から引き離す為に。


『〔大丈夫……きっと私が貴女を助け出してみせるから——〕』


『〔だからっ——〕』


「——佐。シエラ・シュテンリヒ少佐?」


 記憶の彼方へ意識を飛ばしていた私は、すぐ側で呼ぶ声で現実へと引き戻された。


「……ああ、局長。——何か?」


 視界に映る見慣れた男性が、困り果てた様子で私を呼んでいた。

 恐らくは結構な回数私を呼んでいただろう事は、その表情で理解した。

 理解はしたが——無用に関わるつもりもない私は、簡潔かつ短い返答を献上しておく。


 するとその返答に盛大に嘆息した男性が、こちらへの配慮を乗せて言葉を紡いで来る。

 私にとって余計な配慮を乗せて——


「これで今週に入って4回目だ。そう硬くならずに気楽にしていてくれ給えよ?まあ、オペレーター陣の目に余る気楽さは問題ではあるが——」


「君はもうあの組織の人間では無い。——それは我がマスターテリオン機関に携わる皆が承知している。……そんなに硬くなるのはこれが——」


 余計な配慮の応酬が私にとっては居心地が悪い。

 誰が何を言おうとも、私が組織に加担し——世界にとって危機的な状況の引き金を引きかけた事実は変わらない。

 けれど露骨な不機嫌さを出す訳にも行かない私――意図してではないが、局長である男性……【三神守護宗家】が一家を代表する八咫やた家当主の言葉にまんまと反応してしまう。


 この八咫やた家現当主――八咫 真志やた しんしはこの様なお節介が過ぎる程に、特段悪い人柄でもない。

 あの迷惑で騒がしいOPを前にして、辛くも纏められるのはこの男性が持ちえる能力の一端なのだろう。


 その局長殿が言葉を切り――視線を向けた先を同じく向いてしまった私も、それが視界に映り……一層の不快感が襲って来た。


「この、星の守護者――【竜星機オルディウス】が必要になった時で構わないからね?」


 ここはその機体が一望出来る展望スペース兼データ観測施設。

 現在この存在――星の守護者と呼ばれた者を、各種データを照らし合わせながらの研究中。

 データ施設のある場所はゆうに、建築ビルで言えば10階は数える高さ——そこでようやく機体の胸元に至る。

 それだけでもこの星の守護者と呼ばれる存在が、如何に巨大か想像に難く無い。


 そして——この巨大なる守護者。

 竜と星の名を背負う機体はいにしえの——それも数千年どころではない……数万年単位の基準で存在する古の技術オーバーテクノロジーが、現代に姿を止めるに等しい。

 今尚搭乗者が存在せぬ、数字を冠する獣マスターテリオン機関が有する


 それが望まざる事態を打ち払うべく、雌伏の時を刻んでいるのだった。

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