今だけ椅子ガチャが無料で引けます!!

ちびまるフォイ

ガチャで人はどこまでも堕ちていく

「いらっしゃいいらっしゃい!! 今だけ椅子ガチャが無料だよ!」


「……椅子ガチャ?」


とある家具屋で威勢のいい声で商売がされていた。


「お、お客さん女体に興味あるのかい?」


「いや今は椅子の方に」


「それじゃ椅子ガチャやるのかい!!」


「えっと、その前にどんなのか聞いていいですか」


「それじゃ10連いってみよーー!!」

「聞けって!!!」


自分の寿命をプリペイドカードに変えると、

店員の前にあるガラガラを回した。


「おめでとうございます!! ★5の椅子です!!」


「すごさがわからない!!」


「最高レアリティですよ、あなた運がいいですねぇ。

 まあ、初回だけ確率調整して★5しか出ないようになってることは

 ここと、ネットだけの秘密にしてくださいね」


「ばらしたも同然じゃん……。椅子いらねぇなぁ……」


なかば強引に椅子を押し付けられて家に帰った。

何の変哲もない椅子だったがもらったからには使っておかないとと思い腰掛けた。


すると、どうだろう。


「ふ、ふわぁぁぁ~~~♪」


ゆったりと背をまかせられる安心感。

いつまでも座っていられるような落ち着きよう。

魂があるべき場所に収まったようなフィット感を感じる。


もうこの椅子からケツ一歩でも動きたくなくなった。


一歩間違えると椅子ニートになりかねないほどの包容力だったが、

幸いにも在宅ワークだったので椅子はさまざまな面で大活躍した。


「いやぁ、君すごいよ。最近の作品のほうがよく書けてる」


「ははは、編集さんに褒めてもらえるなんて光栄です」


「なにか変わったのかい?」


「椅子を少々……」


それまで特に意識してなかったが、生活の大半は座っている。

それだけ長時間を費やす場所に金をかけることを怠っていただけあり

★5椅子の登場で仕事の効率はぐんと上がり、モテまくりの勝ちまくりだった。


そんなある日、また同じ店を訪れると、今度は別の素材を売っていた。


「いらっしゃいいらっしゃい! さらなる極楽を求める人だけよってきな!!」


「こんにちは。これは何を売ってるんですか?」


「★5椅子のかけらだよ」


「ええ……? かけら? なんでそんなものを」


「お客さん、まだまだ椅子を知らないねぇ。

 椅子の足がどうして4つあるのか知ってるかい?」


「さぁ……安定するからとか?」


「このカケラは★5椅子を限界突破させることができるんだよ」


「足の話は!?」


「ほら、兄ちゃんも引いてみなよ。運良くかけらが手に入るかもしれないよ。

 限界突破した椅子は想像を超えているよ、きっと」


「よ、よし……!」


意を決してガラガラを回した。


「おおおお! お兄さんすごいよ!! ★5のカケラだよ!!」


「本当ですか!? やった! これで俺の椅子が限界突破できるんですね!」


「いや、あと3つ集めないと。4つ集めて初めて効果あるんですよ」


「先に言えよ!!」


「だから、椅子の足は4つあるんだ。それぞれにセットしないとね」


「先に言えってぇぇぇ!!」


結局、カケラ1つで引き下がることもできず、全部出るまで引きまくった。

やっとこさ手に入れて限界突破した椅子の座りごこちたるや……。


「ふにゃぁぁぁぁ~~こ、これはやばいぃぃ~~」


人をダメにするとかそういうレベルじゃない。液化する。

この椅子に座っていると体の疲れが椅子に吸収されて、体と一体化してしまう。


「全財産すべて椅子ガチャに突っ込んだだけの価値はあった……。

 こんな椅子に一生涯で出会えるなんて、俺は幸せ者ふにゃあぁぁぁ~~……」


もうこの椅子から離れることはできない。

寝るときも、食事のときも、はては外出のときも椅子と一緒。


そんなある日の人間ドックで恐るべき事実が伝えられた。


「死にます」


「はい!?」


「あなた、死にますよ。このままじゃ」


「あの、胡散臭い宝石とか数珠とか売るための文句みたいなのを

 医者が言うのはどうかと思いますが」


「あなたね、椅子に座りすぎなんですよ。

 人間はもともと二足歩行するようにできている。つまり「立ち」です。

 立ち姿勢を取らなくなった人間の体に異常が起きるのは当然でしょう」


「ムスコの話ですか?」

「切り落とすぞコラ」


医者はすぐにメスを首筋につきつけた。


「とにかく、その椅子から離れてください。まっとうな生活ができなくなりますよ」


「いやだいやだ! この椅子から離れるくらいなら、

 もう歩けなくたっていい! うわぁぁん!!」


「いいですか。よく聞いてください。

 あなたは歩けなくなる恐ろしさを何もしらない。健常者だからです。

 病気になってから健康の大切さに気づくように、

 今あなたは地獄の入り口に立たされている。今ならまだ戻れますよ」


「うぐっ……ガチなやつやん……」


医者にさんざん脅されて家に帰っても、頭にこびりついた恐怖は拭えなかった。

たしかに良い椅子を手に入れてからというもの俺の堕落ぶりはすさまじく、

自分でも体のどこまでが椅子かわからないほどになっていた。


「か、変えるしかない……!!」


はじめて椅子から張り付いたケツを抜こうとしたが、すでに抜けない。

椅子に座りすぎて皮膚と椅子がくっついてしまっている。


「ダメだ! 無理に剥がそうとしても、俺の体の深層心理が

 この椅子から離れたくないと轟き叫んでいる!!」


医者から処方された椅子依存にきく薬を飲んでも効果なし。

俺の重度依存を決定づけただけだった。


「こ、こうなったらショック療法しかない……」


ひきだしからハンマーを取り出して、おしりの位置に構えた。

離れることができなければ、壊してしまえばいい。


本当は少しづつ慣らしながら椅子依存生活を変えるつもりだったが、

後戻りできないようぶっ壊して治す以外に道はないと考えた。


無意識に体は椅子の破壊を拒んでいたが、

それでも俺はケツ意しお尻にむかってハンマーを振り下ろした。


「うおおお!!」



バキャッ!!



にぶい音とともに椅子の座る部分がまっぷたつに壊れた。

もう座ることはできない。


「やった!! 壊れた! 椅子依存生活から開放された!!」


久しぶりに立ち上がり降り注ぐ太陽の光を全身に浴びた。

砕けた椅子の残骸からは、なにかキラリと光るものを見つけた。


「なんだこれ? 石……?」





「今だけ、石1個で布団ガチャ10連が引けるよ! 1個は★5布団確定だよ!!」


気がつくと、石を使って最高の布団を手に入れていた。

もう前の生活には戻れない。

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今だけ椅子ガチャが無料で引けます!! ちびまるフォイ @firestorage

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