第9話 浮気する人って、最低のクズ!

〈登場人物〉

マイ……中学1年生の女の子。色んなことに腹を立てるお年頃。

ヒツジ……人語を解すヌイグルミ。舌鋒鋭め。



マイ「3組の山田くんが今付き合っている女の子がいるのに、別の女の子と遊びに行ったんだよ。浮気したの! 最低でしょ!?」


ヒツジ「その山田くんっていうのは、お前の好きな男なのか?」


マイ「別に好きじゃないよ。ちょっとカッコイイなとは思ってたけど」


ヒツジ「よく話す仲とか?」


マイ「一言も話したことない」


ヒツジ「じゃあ、その浮気された女の子がお前の友だちなのか?」


マイ「全然」


ヒツジ「……バカか、お前。だったら、その山田なんていうのは、全くの他人じゃねえか。そんな他人が浮気しようが何しようが、お前に関係ないだろ」


マイ「別に関係は無いけど、それでも、浮気っていうのは、許されないことでしょ!」


ヒツジ「何が許されないんだ? 浮気は罪か? 法律に、浮気罪っていうのがあるのか?」


マイ「そんなのは無いけど、法律に書いてなくたって、ダメなものはダメでしょ。付き合っている間はさ、その人のことを大事にしなくちゃダメじゃん。それが、付き合っているってことでしょ」


ヒツジ「じゃあ、そうやって付き合ってどうするんだ? そのままずっと付き合って、生涯他の人に目もくれないのか? 『二人はいつまでも幸せにくらました』って、なるのか?」


マイ「それは……まあ、いつかは別れるかもしれないけど」


ヒツジ「別れて、また別の出会いを求めるわけだよな。だとしたら、別れる前に浮気して別の出会いを求めたって同じことだろ。遅いか早いかの違いだけだ」


マイ「ちゃんと別れるまでは、浮気しちゃいけないって言ってんの!」


ヒツジ「お前、よく恋愛漫画読んでるだろ」


マイ「なによ、急に。読んでるけど、それがどうしたの?」


ヒツジ「その漫画のヒロインと相手役の男の子は、出会ったときから互いに互いのことだけを想って、くっついたあともひたすら互いのことだけを想って、それで物語は終わるのか?」


マイ「そ、それは……そういう話も無いことないけど……普通は、恋のライバルが現われるかな」


ヒツジ「それは、いつも、ヒロインと相手役が付き合う前なのか? 付き合ったあとは、現われないのか?」


マイ「そんなことないよ……何が言いたいの?」


ヒツジ「つまり、誰かと付き合ったあとも、その誰か以外に心揺れることがないと、恋愛っていうのは、つまらないってことだ」


マイ「それは漫画だからでしょ!」


ヒツジ「現実も同じことだ。お前に好きなヤツがいたとして、そいつと首尾良く付き合うことができるようになったとするよな。初めはいいさ。楽しくてしょうがないだろう。ただ、そのうちに、飽きるわけだ。そのときに、他のヤツに目が行くようになる。浮気心だ。浮気心を持つことによって、今付き合っているヤツとの飽き飽きした関係が、また面白いものになってくる。別の人に乗り替えようか、でも、よくよく考えると今の人も捨てがたい……ってな具合にな。浮気心ってのは、恋愛のスパイスなんだ」


マイ「絶対に納得できない! それに、百歩譲って、浮気心を認めたとしても、実際に浮気するのとは別の話でしょ!」


ヒツジ「心が離れているんだから、実際にそれを行動に移したって、別にそう大して変わりないだろ」


マイ「全然違う!」


ヒツジ「ちょっと話を変えるがな、お前みたいに、自分と全然関係ない人間の浮気を取りざたする人間は多い。浮気した有名人はすぐやりだまに挙げられる。どうしてか分かるか?」


マイ「どうしてって……だから、浮気は悪いことだからでしょ」


ヒツジ「悪いことだったら、他にいくらでもあるだろ。殺人とか放火とかな。それらの悪いことに比べたら、浮気なんて大したことじゃないよな。それでも、それらの悪いことと同じくらい取りざたされるわけだ。それは、どうしてか?」


マイ「どうしてよ?」


ヒツジ「みんな、浮気に興味があるからだ。自分だって、チャンスがあればしたいと思っているから、チャンスを得て現に浮気したやつをここぞとばかりに責めるんだよ。あいつばかり浮気してけしからんってな。お前が、よく知りもしない人間の浮気について言うのは、お前も浮気に興味があって、できるもんならしたいって思っていることの証拠だ」


マイ「そんなことない! わたしは浮気なんかしない!」


ヒツジ「そもそも、浮気なんてもんが、何かしら人生の重大事のように思われているのはバカげた風潮だ。パートナーに裏切られるなんてことが、なんでそんなに大したことなんだ。自分に見る目が無かったんだって思えば、それで済む話じゃねえか」


マイ「そんな簡単に割り切れないでしょ! それに、自分に見る目が無かったって、あっちが悪いことしたのに、どうしてこっちが反省しなきゃいけないのよ!」


ヒツジ「好きになったのがこっちだったら、浮気されたら、こっちが反省するしかないし、好きになったのがあっちだったら、こっちは特に好きでもないわけだから、浮気されても、特にダメージを受けることはない」


マイ「あんた……誰かを好きになったことないでしょ」


ヒツジ「なかなかオレに見合うヤツがいないからな。お前も常に自分に見合った相手を見つけようと思ってみろ。価値ある相手を求めるためには、まず自分の価値を高めなければいけないことになるだろ。そうすれば、いざ誰かと付き合って、その相手に浮気されたとしても、自分という素晴らしい人間がいるのに他のヤツを選ぶようなのは所詮大した人間じゃなかったんだからって、腹も立たないことだろうさ」

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