第4話 わたしはわたしの人生を生きる! 誰にも指図されたくない!

〈登場人物〉

マイ……中学1年生の女の子。色んなことに腹を立てるお年頃。

ヒツジ……人語を解すヌイグルミ。舌鋒鋭め。



マイ「親も教師もうるさいよ! あれをしろ、これをするなってさ! わたしの人生なんだから、わたしの好きにさせてよ!」


ヒツジ「お前は本当にバカだな」


マイ「なんでよ! ……あー、あれでしょ、『お前のためを思って言ってるんだ』ってヤツ。それを分かれってことでしょ? 本当にわたしのことを思って言ってるならさ、わたしのことを尊重して、わたしの好きにさせてよ!」


ヒツジ「そういうことを言っているからバカだって言ってるんだよ。親や教師はお前のためを思ってなんかいない」


マイ「えっ、なに?」


ヒツジ「親や教師がお前に何かを命じたり禁じたりするのは、その方が自分たちにとって都合がいいからだ。そんなことも分からないのか?」


マイ「……なんで、わたしに何かを命じたり禁じたりするのが、自分たちにとって都合がいいことになんのよ。わたしの人生と、親や教師の人生とは関係ないじゃん」


ヒツジ「大ありだろ。親はお前のことを養育しなけりゃいけないし、教師だって実に一日7~8時間もお前の面倒みなけりゃいけないんだ。『おれたちに迷惑かけないような良い子でいろ』と思ってあれこれ言うのは、当たり前のことだ」


マイ「ちょ、ちょっと待ってよ。それのどこが当たり前なのよ。そんなのおかしいじゃん!」


ヒツジ「何もおかしくない。むしろ真っ当すぎる話だ。お前みたいに、『親や教師がわたしに干渉するのは、わたしの将来を考えてのことだ』なんていう考えこそ、おかしい。どうして、親や教師が自分自身の利益よりも、お前の利益を優先してくれるって信じているんだ?」


マイ「だ、だって、よく言ってくるよ、『お前のためだ』って」


ヒツジ「それも当たり前のことだろう。『勉強を頑張るのはあなた自身の将来のためなのよ』って言われるのと、『勉強を頑張るのは、そうやって勉強に集中してくれていれば世間体も保てて、他につまらないこともしないだろうから、お母さんが楽なのよ』って言われるんじゃ、どっちがマシだ?」


マイ「そ、それは、前の方だけど……」


ヒツジ「そうだろ? だから、『お前のため』なんていう言い方は、『自分のため』を覆い隠すための嘘なんだ。その嘘に向かって文句を言ったってしょうがないんだよ。もともと嘘なんだから。問題は、こういう種類の嘘っていうのは、何度もついているうちに、ついている本人もそれが本当だって信じ込んでしまうってことだな。だから、もしも、オレが今言ったことを、親や教師に言ってみろ、彼らは『本心から』怒ってくるだろう」


マイ「ちょっと待ってよ。じゃあ、本当に子どものためを思っている親とか教師っていないの……?」


ヒツジ「お前にとってはその方がいいんだろ?」


マイ「……そう言って干渉されたくはないけど、子どものためを思う親や教師がどこにもいないっていうのは、ちょっと……」


ヒツジ「子どものためだなんて言ったって、その子どもと親や教師は別の人間だろう。どうして、彼らが彼らではない人のためを思うことができるんだ。それはどこまで言ったって、彼らが考えるところのその子の利益だろう。だとしたら、それは彼らの利益じゃないか。まあ、もしも、こういうことをはっきりとお前に言う親や教師がいたら、お前のためを思っているって言っていいかもしれないけどな」


マイ「……今あんたに言われて、あんまりためになった気もしないけどね」


ヒツジ「お前にお前の人生があるように、彼らにも彼らの人生がある。お前が好きに生きたいように、彼らも好きに生きたいんだ。で、お前の人生と彼らの人生は関わり合ってる。だとしたら、多少は妥協が必要だろ。それが嫌なら縁を切るしかない。そこんところを理解することだな」

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