第3話 人は見た目が9割なら、見た目悪い人はどうすりゃいいの?

〈登場人物〉

マイ……中学1年生の女の子。色んなことに腹を立てるお年頃。

ヒツジ……人語を解すヌイグルミ。舌鋒鋭め。



マイ「あのさ、ヒツジ……正直に答えてほしいことがあるんだけど……」


ヒツジ「オレはいつでも正直だけどな。ウソをつく利点がないからな」


マイ「……わたしって可愛い?」


ヒツジ「なんだ、好きな男でもできたのか?」


マイ「そんなんじゃないわよ。答えなさいよ」


ヒツジ「十人並みだろ」


マイ「…………どーも」


ヒツジ「中1なら、自分の容姿がどの程度か自分で分かりそうなもんだろ」


マイ「まあ、分かってはいたけどね……」


ヒツジ「自分の容姿が気になるのか?」


マイ「当たり前でしょ。学校じゃ、それが全てみたいなとこあるし」


ヒツジ「ま、しょうがないかもしれないな。そういうお年頃だしな。でも、この世の中には、容姿が優れているやつもいれば、そうじゃないやつもいる。どっちでもないお前のようなやつもな。それが、この世の中なんだから、しょうがないだろ」


マイ「絶望的なこと言わないでよ。成長すれば可愛くなる可能性もあるとか、メイクを覚えればいいとか、そういうこと言えないの!?」


ヒツジ「自分で知ってるんだったら、オレが言う必要はないだろ」


マイ「自分で言うのと、他人から言われるんじゃ違うのよ。たとえ、それが、あんたみたいなヌイグルミだとしてもね」


ヒツジ「容姿なんか気にしなけりゃいいだろ」


マイ「出た!? 外見より中身だとか、そういうこと言う気なら、やめてよね。もしもそうだとしたら、どうして、わたしたちは外見に惹かれるのよ」


ヒツジ「まあ、そりゃそうだな。外見より中身が大事だなんて言い方をするヤツは、だとしたら、なぜ人は外見に惹かれるのかというところに注意を向けることができていないヤツだ。外見より中身だなんてわざわざ言うのは、実は外見のことが気になって気になって仕方がないからだ。もしも、中身だけが大事なら、外見のことなんて言わないだろうからな」


マイ「あんたも同じことが言いたかったんじゃないの?」


ヒツジ「全く違う。オレが言いたいのは、外見なんてのは気にしなけりゃ気にしないで何とでもなるものだって、それを言っているだけのことだ」


マイ「気にしなけりゃって言ったってねえ……現に気になるんだから、しょうがないでしょ」


ヒツジ「そこはトレーニングだろ。外見気にするより、楽しいことを見つけろよ。そうして、それに没頭しろ」


マイ「……楽しいことって言われても……それにさあ、わたしがそれを見つけたとしても、学校とか友達とかは、それを気にしているわけだから、いやおうなく巻き込まれちゃうんだって」


ヒツジ「お前らの世界は、学校と家だけだからな。その世界の外にはもっと広い世界が広がっている。そういうところに出ちまえば、今の世界の価値観なんてものはクソみたいに思えるんだけどな。ていうか、そういうところに、早く出なけりゃだめだな。まあ……中高生のうちならまだいいが、20代30代になっても容姿ばかり気にしているヤツは問題だな。そりゃ、ちょっと気にするのはいい。でも、それだけになっちまってるヤツは、言わば、子どもの世界を持ったまま大人になったヤツだ」


マイ「そういう大人、普通だと思うけど」


ヒツジ「残念ながらその通りだ。アンチエイジングやら美魔女やらなんやら、いつまで外見の美しさなんていう子どもの価値観を引きずっているつもりなんだ」


マイ「それって、外見の美しさを求めているというよりは、若さを求めているんじゃないかと思うけど、いつまでも若いままでいたいって思うことの何が悪いの?」


ヒツジ「いつまでも若いままでいられるわけないだろ。そのことに関する無知が悪いのさ。いや、ある意味では若いままでいられるけどな。もちろん外見のことじゃない、中身のことだ。中身はいつまでも未熟なままでいられる。で、その青臭い中身のまま、外見に振り回されて一生を終える」


マイ「……何か楽しいこと見つけとくよ、今のうちに」


ヒツジ「それがいいな。今の世界の外に出て、そこで没頭できることを見つけて、外見以外の新たな価値観を作り上げろ」

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