「風鈴」「さばみそ」「殺人鬼」

「ねえねえ、缶詰拾ったよ!」

「何でもかんでも拾うな。お前は犬か」

「えっとね、さーばーみーそー。さばみそだって! ねえギッタ、さばみそってなーに?」

「なんかの脳みそだろ。気持ち悪いから捨てとけって」

「あのね、ふたに日付が書いてるんだ。ミュウル知ってるよ、日付が書いてある缶詰は食べ物!」

「食べるなよ」

「なんで?」

「お前は食べ物かどうかも分からないものを口にできるのか? 確認するけど、お前本当に犬じゃないだろうな?」

「食べ物だよ。おいしそうなお肉の絵が描いてる」

「でも食うなよ」

「なーんーでー!」

「腹壊すからだ。仮に食べれるモノだったとしても腐ってるに決まってる」

「大丈夫、ミュウルのお腹は強いから。それに缶詰だから腐らないよ」

「ああそうかい。じゃあ勝手に食って勝手にくたばってな」

「いっただっきまーす!」


「ねえギッタ……」

「なんだよ」

「ミュウルお腹痛い。ちょっと歩くのやめよ?」

「はぁ。だから食うなって言ったんだよ」

「待ってよ、ねえ。歩くのやめようよ」

「ヤだね。さっき言った通り勝手にくたばってろよ。俺は進む」

「なんでさ!」

「死にたくないからだよ。血の匂いから遠ざかればそれだけ安全になる」

「待ってって! 待ってってば! 一人じゃ行けないでしょ!」

「それだけ声張れるなら問題ないな。……はぐれるのが嫌だったら黙ってついて来いよ。今日中にこの街を出ないと追いつかれるぞ」


「ここいらなら大丈夫だろ。……おいミュウル、ついて来てるか?」

「うるさい!」

「すねやがって、面倒くせえな。自業自得だろ」

「違うもん。ギッタが待ってくれないのが悪いんだもん」

「分かったよ俺が悪かった。だからちゃんと食えるもん探してきて……なんだ?」

「……どうしたのー、ギッタ?」

「今何か聞こえなかったか? ……ほらまた! 匂いはしない、誰もいないはずだろ。どういうことだ」

「たぶんあれだと思う」

「あれって言われても分かんねえんだよ」

「向こうにある家、なんか飾ってる。透明で、揺れてて」

「何だよ、それは」

「分かんない」

「音が鳴ってるだろ。機械仕掛けのトラップか何かじゃないのか?」

「違うよ。風で揺れてるだけ。……ミュウル、この音好きかも」

「そうかい。無害なら問題ない。それに犬っころも機嫌直してくれたみたいだしな」

「直ってない!」

「あー、はいはい。分かったから食い物と休める場所、探してこい。五分以内だ」

「……はーい」


「ねえギッタ、明日はどこまで行くの?」

「さあな。安全だと思う場所までだ」

「安全って?」

「……さあな。あいつがたどり着けない場所までだよ」

「血の匂い、する?」

「まだ少し。今夜は大丈夫だろうけど、明日はもっと遠くまで逃げないと」

「そっか」

「……」

「ねえギッタ、あの透明のやつ、持ってってもいい? ミュウル、あの音気に入ったんだ」

「お前、本気で承諾されると思って聞いてるのか? ダメに決まってるだろ」

「なんで」

「音が鳴るからだ。万が一近くまで来た時に見つかっちまう」

「大丈夫だよ。ミュウルが鳴らさないようにするから」

「お前があれを持っていくなら、俺はお前を置いていく」

「なんで……」

「死にたくないからだよ」

「置いてかないでよ。一人じゃ行けないじゃん」

「一人でダメなら最初からくたばる運命だったってだけさ。抗いたいなら黙ってついて来いよ、明日も」

「……」

「……」

「ねえギッタ」

「……」

「ギッタ!」

「なんだよ。大きい声出すな」

「泣いてるよ。ミュウル、今泣いてる。ほら、触ってよ、涙」

「……だからなんだよ」

「なんでもない」

「そうか。だったら寝れるときに寝とけ。俺はもう寝る」

「うん」

「……」

「ねえギッタ」

「……」

「一緒に逃げようね、明日も、明後日も、ずっと」

「……おう」

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