「富士」「鷹」「なすび」

 薄暗い部屋、中央に据えられた円卓を囲み、仮面をつけた者たちが集っていた。ここはヒーローを倒すために日々怪人を開発する秘密結社の本部、その会議室。


「さて、今回の計画だが……」

 立ち上がった一人が口を開く。

「来る決戦の日が正月だということを踏まえ、とにかく縁起を担いでいこうと思っている。昨年はヒーロー軍に全敗を喫する散々な結果となったが、『一年の計は元旦にあり』という言葉がある通り、次の一戦が今年のすべてを決めると言って過言ではない!」

 太く強い声が会議室の隅まで届き反響する。そこにいた全ての仮面が彼をまつり上げるかのように、拍手と喝采を浴びせている。

「私が提案するこの『賀正怪人ニューヤー』の破壊力と縁起をもってすれば、今年こそヒーローたちを滅多打ちにできるだろう!」

 そう言って右手を高く掲げた彼に、その場にいた全員が秘密結社の勝利、そして新たなる時代の日の出を確信した。



 二日後、同じ会議室に同じ者たちが集まっていた。顔触れこそは変わらないが、仮面の奥からは隠しきれない悲愴感が漂っていた。

「さて、今回の反省点だが……」

 賀正怪人を提案した仮面が重々しく口を開いた。ちょうど向かいに座っていた一人が手を挙げ、立ち上がった。

「僭越ながら、私が感じたことを。ニューヤーの特徴として挙げられるのは、本部長が縁起物として取り入れた『富士』『鷹』『なすび』にまつわる三つの新装武器、これは間違いありませんか?」

「ああ、もちろんだ」

「正直に申し上げますと、これらすべてが敗因だと考えられます」

 彼の背後のモニターで戦闘の映像が再生される。

「ご覧ください」


 賀正怪人がヒーローに攻撃している場面が映っている。手から大量に放たれたものが、次々と爆発していっている。

「ご存知『なすびキャノン』の使用映像です。腕からなすび型の爆弾が放出され、時間制限で爆発するというものでしたが……」

 言いよどんだ彼が見つめるモニターの中で、イレギュラーしまくるなすびの映像が流れている。まともにヒーローたちに攻撃できるどころか、半分ほどは怪人の足元で爆発しダメージを受けている。


「次はこちらです」

 怪人の頭にとまっていた鷹が飛び立つシーンだ。

「これは武器なのかすら怪しいですが、ただの鷹です。しかも調教されたものでもないため、ご覧の通りです」

 カメラが空の彼方へ消えてく鷹を追い、最後にはただ青い空だけが残った映像だった。


「最後はこれですね。今回のメインウェポンとして搭載された『富士キャノン』です。『なすびキャノン』と名前が被っている点はもはや目をつぶるとしても、どうしてこんな場所に搭載したのか、疑問を禁じえません」

 映ったのは怪人の後ろから撮影した映像だ。怪人の背中に大きな噴火口のような穴があいている。

「実際の富士の噴火とタイを張れるほどの破壊力、という触れ込みでしたが、こうなりました」

 戦闘も終盤の様子だ。といっても、ヒーローたちはほとんど疲れていないのに対し、怪人は受けた攻撃と自爆のダメージでへとへとの状態である。

 不意に怪人が後ろを向く。そのメインウェポンをヒーローたちに浴びせるため、彼らに噴火口を向けたのだ。

 次の瞬間、轟音。そして反作用で前のめりに倒れる怪人。噴出した溶岩や火砕流は重力に逆らって上側に広がり、やがて時間とともに辿った軌跡を折り返す。

 映像の最後には、溶岩に埋もれて断末魔をあげる怪人と、苦笑いを浮かべて去っていくヒーローたちが映っていた。



 モニターの画面がフェードアウトし、会議室に再び闇が灯る。

「以上が今回の反省点だと思われます……」

 重苦しい沈黙がその場を包みこみ始めたとき、本部長が口を開く。

「まあ、まだ今年一回目だからね! 今回はエキシビションということだ!」

 その言葉を受け、彼の挑戦を称える拍手と、新たな戦いを予感させる歓声が巻き起こった。

 頑張れ秘密結社! 負けるな秘密結社! ヒーロー軍を倒すその日まで!

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