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一、
おはようございます。よく眠れましたか? かなり長い時間眠っていられたようですが……。ずいぶんとお疲れでいらっしゃったのですね。
どうされました?
え? 誰と話していたのかって?
いえ、私は誰とも話しておりませんでした。はい。ずっとここで待っていただけです。
それに、あなたは今起きられたのでしょう? だったらどうして私が誰かと話していたと思われるのです?
え? 起きていた? そんなはずはないと思いますが……。
そうだ。きっと、夢を見ていらしたのですよ。きっとそうです。あなたが起きていたはずがありませんもの。私、確認していましたから。
はい。本当ですよ。私はずっとここで待っていただけです。
え?
そんなにおっしゃるのであれば、夢の中での出来事を思い出されてみてはいかがですか? きっと、あなたの気のせいだと気づくはずです。
思い出せない? それならばやはり気のせいなのでは?
いえ、私は嘘をついてはおりません。見ての通り、ここにはあなたと私以外、他に誰もおりませんよ。
そうだ。もう一度お休みになられてはいかがですか? その方が頭もすっきりするでしょう。夢の中で夢の追憶をしてみるのも良いのかもしれませんね。
え? いえ、そんなことはありません。
はい。
はい。お休みなさいませ。
五、
おはようございます。よく眠れましたか?
はい。見ての通りです。あなたが最初です。
そうですね。そういうことになります。
え? ああ、それも仕方のないことなのかもしれませんね……。
はい。あなたが目覚めてしまった時点で、逃れることはできなくなりました。
いえ、気を落とす必要はありません。
え? もう一度寝てもいいかですって? 構いませんが、時間稼ぎにはなりませんよ。
はい。その前にお目覚めになられると思います。
そんなにおっしゃるのであれば、試されてみれはいかがですか? 私はずっとここで待っていますから。
ですが、お休みになっている最中に消えてしまうこともあり得るのです。最後ぐらいお話でもいたしませんか?
え?
はい。私は初めから数に含まれていません。申し訳ございません。
申し訳ございません。
あ。
はい。時間のようです。さようなら。またお会いしましょう。
四、
おはようございます。よく眠れましたか?
はい。つい先程。
え? 様子でございますか? 少し混乱されているようでした。寝ぼけていたのかもしれませんが、なにぶん短い時間でしたので。
仕方のないことです。それも必要なことでした。
はい。お話なら構いませんよ。私もあなたのお話を聞きたいと思っていたところです。
それはとても興味がありますね。ぜひお聞かせくださいませんか?
いえ、仕事ではなく個人的な興味です。
いえ、私は嘘をついてはおりません。
え? 時間? そうです。詳しくは存じ上げませんが……。
はい。
とても愛していらっしゃったのですね。
どうされました?
え? 私に似ていた? その方が?
きっと、気のせいですよ。
はい。こうして会話をするのは今日が初めてです。
その可能性はございます。申し訳ございません。
ありがとうございます。ぜひその方の分も頑張りたいと……。あ。
はい。残念ですが。さようなら。またお会いしましょう。
三、
おはようございます。よく眠れましたか?
え?
いえ、人違いです。私があなたにお会いするのは今日が初めてです。
はい、私は嘘をついておりません。白を切っているわけではございません。本当に私はその方ではありません。私はずっとここで待っていただけです。
え? はい、そうですね。ひとつ前にも同じことを言っていました。
失踪した? そうですか……。
はい、その可能性はございます。申し訳ございません。
どうしてそんな顔をするんです?
え? あなたがそう呼びたいのであれば構いませんが……。
いえ、私にはそういう方はおりませんでした。
冗談はやめてください。もし本気だとしても……。
申し訳ございません。そんなつもりはございません。
あなたさえ良ければお話を聞かせてくださいませんか?
はい、仕事ではなく個人的な趣味です。
話したいことを話してくださいませ。
え? そうだったのですか。
告白したいって? 分かりました。
気持ちが私に向いていないと知っていても恥ずかしいものですね。いえ、お気になさらずに。
もし向こうで会えたら、きっとその時は。
あ。
きっとその時はその方に言ってあげてください。さようなら。またお会いしましょう。
二、
おはようございます。よく眠れましたか?
え? 覚えていらっしゃらないのですか? そんなはずはないと思いますが……。
落ち着いてください。焦っても状況は変わりませんから。まずは座って。
そうです。座ってください。
気味が悪い? そんなこと言わないであげてください。一応あなたなのですから。
どうしてそんな顔をするんです? 消えてしまうのが悲しいのは分かりますが、それもすべてあなたのためで……。
え? 本当に何も分からない? 冗談ではなく、本当に?
いえ、そんなつもりはございません。疑って申し訳ございませんでした。私の落ち度です。
え?
はい、そのつもりです。今となってはどうしようもありませんが、時間の許す限り説明はさせていただきます。どうか冷静にお聞きください。
世界には似た顔の人間が複数人いる、という話を聞いたことはありますよね。
はい。人数は諸説あるみたいですね。
話が逸れました。時間も限られているので続けます。この世界にはそういうそっくりさんだけではなく、まったく同じ人物が存在しているのです。
いえ、ふざけているわけではございません。
え?
はい、そう呼ばれています。他にはダブルとも……。
その通りです。出会ってしまったら間もないうちに死んでしまいます。もう少し正確に言えば、互いの存在を否定しあって消えてしまうのです。
はい、その場合は両方ともです。
あなたの場合は全員で五人いらっしゃいました。
いえ、通常の大人は多くても三人ほどです。ほとんどが幼いうちに消えてしまうので。あなたぐらいの年齢で五人も残っているのは極めて稀でした。
はい、とても危険な状態だったと思います。ただでさえ前触れなく人が消えたら混乱も大きいのですから、複数人が同時に鉢合わせてしまったら事態は最悪でしょう。
え?
はい、ご察しの通りです。ここにあなたを集めて順番に起きてもらっているのです。
はい。目覚めた順に消えていってしまいます。あなたが四人目です。
既に消えてしまった三人を含めてあなた以外の四人全員には了承をとっていました。あなたにも理解してもらっていると勘違いしていました。本当に申し訳ございません。
どうされました?
それでもいいって? ありがとうございます。
はい、最後に目覚めたあなたは無事にもとの生活に戻れるように配慮いたします。
え? 記憶を? 分かりました。
いえ、少なからず残った罪悪感などもあるでしょうから。一度目覚めた後に暗示をかけて消します。
ご心配にはおよびません。これも私の仕事なので……。
あ。
はい。最後にこんな終わり方をさせてしまって申し訳ございません。
え? ……さようなら。またお会いしましょう。
一、
おはよう。よく眠れた?
うん、まだ遅刻するような時間じゃないよ。慌てなくても大丈夫。
やだな、嘘ついてなんかないよ。ほら、時計見てみなって。
うん、起きるまでずっと待ってた。
どうしたの? なんか真面目な顔して……。
え? 夢? 今見てたの?
じゃあその夢の話聞かせてくれない?
え? うん、朝ごはんならできてるよ。食べながら話す?
なにさ、急に改まっちゃって。気にしなくていいよ、私の仕事なんだから。
それよりもその夢、聞かせて。
え? 私に似てたの?
そうなんだ……。
ドッペルゲンガー? 見ると死んじゃうっていう?
あなたが? なんか不思議な夢だね。
やだな、私はあなた一人しか知らないよ。本当だよ?
え?
急に何言うの。恥ずかしいよ。でも、うん、ありがとう。うん、私も……幸せだよ。
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