第126話 ウルカ村

「……なんか、凄いことになってる!!」


 半月の修行を終えたオルレオはガイと共に集合場所である一月ほど前に来たことがあるウルカ村までやって来ていた。だが、オルレオの目に映るウルカ村は、オルレオが知るかつての小村とは思えようがないほどに大きく様変わりしていた。


 まずはその範囲だろう。前にオルレオ達が来た時には街道の片側にしか建物が無かったというのに今では街道の両脇に拡がっている。次に、その村を囲む外堀が出来ている。街道の端から少し行った所からオルレオの身長を倍にした位の深さで、助走をつけて跳んでも渡れないほどの幅で空堀が掘られている。もちろん、この戦いが終わったらすぐに埋め戻すことが出来るように村側には掘り出した土で壁が作られている。


「そりゃあ戦いの前だ。防備は堅めるだろうし、今後、ここを拠点に魔物狩りを進めるとなったら関係する人数も増えるからな、こうもなるだろう」


 あまり驚いた様子が無いガイが先に歩き出して村の入口に着くと、そこでは冒険者ギルドの職員が受付を開いていた。今回の魔物討伐に関係の無い人間は村に入れないようになっているらしい。


 受付をすませて村の中に入ってみれば、そこはたくさんの人でごった返していた。冒険者を相手に商売をしている狼人、書類を片手に走り回っている蜥蜴人、防衛用にゴーレムを創っているドワーフの魔術師がいれば、矢を量産しているエルフの鍛冶師までいた。


「こういう大規模な戦ってのは軍人や冒険者だけじゃ回らん。おそらく各ギルドから応援に来た連中が後方支援をしてくれてるんだろう。商売しているやつらは空いた時間での片手間ってところか」


 ガイの言葉を受けて、オルレオは冒険者ギルドで説明を受けた時のことを思い出していた。


 頭の中で理解していただけとは違う、オルレオは目の前の状況を見つめながら実感が根付いていくのを確かに抱いた。


「色んな人に支えられて、俺たち戦えるんですね」


「そうだ」


 言葉を短く切った後。


「だから退けんし、負けられん」


 力強く言い切った師の姿をオルレオは、格好いいとそう思ってしまった。同時に少しだけ似合わないとも。


「おう!! ようやく来てくれたな!!」


 往来の中から真っ赤な髪が見えた。


「オマエが呼びつけたんだろが、フランセス」


「はっは、それでも来るか来んか分からんのがお前だろう? ガイ」


 その言葉が図星だったのか、ガイが少しだけ視線を逸らした。


「それにオルレオもよく来てくれたね」


 トンと軽くオルレオの胸をフランセスが小突いた。


「どんなもんだ」


「準備は順調。頼みの鬼札ジョーカーも二枚揃ったことだし、余程の事が無ければ何とかなるさ」


「二枚ってことは……」


「私と貴方、でしょうね」


「アディ」


 いつの間にか、オルレオのすぐ後ろにアデレードが姿を現した。


「うわっ!? いつの間に!?」


 オルレオがパッと振り向くと、アデレードはひらひらと手をふりながらにこやかにほほ笑んでいた。


「ふふっ、いつからでしょう?」


 もう一つアデレードは笑みを深くした。


「おーい!!」


 その向こう、村の入口から声が響いてきた。駆けてくる影が二つ。それはオルレオもよく見知った人物だ。


「久しぶりってほどでもないけど、久しぶりだな オルレオ!!」


 モニカと。


「半月ぶりですね、元気でしたか」


 ニーナの二人だ。見た目や装備に変わりはない。それでも今までとはナニカが違う雰囲気を漂わせている。


「うん。二人も元気そうでよかった」


 久しぶりにパーティーメンバーの三人がそろった。


「オルレオ」


 ガイに呼ばれたオルレオがパッと振り向く。


「俺はこの二人と今回の件について話をしてくる。お前は自分の仲間と打ち合わせをしておけ」


 ガイは返事を聞かずに踵を返し、それを追うようにアデレードとフランセスが続いていく。


「で、どうだったんだよ? 修業は」


 モニカがオルレオの背に声をかけた。


「ああ、今まで以上に盾を使った戦い方は上手くなったと思う。技も増えたし、前よりも多くの敵を相手取れる。期待してくれていい」


 振り向いて、オルレオは二人の顔を見ながら説明した。ちょっとだけ自慢げな言い方になったのはオルレオの自信の表れだ。


「ほ~ん、言うじゃねーか」


「それだけ言うなら、しっかりと頼らせてもらわないといけませんね」


 二人の反応にオルレオはちょっとだけ懐かしさを覚えながら。


「そっちはどうだった」


 今度はオルレオから聞きなおした。


「まっ、これまでのアタシらと思ってもらったら困るってところだな」


「期待してくれても構いませんよ?」


 二人も自信満々と言った様子で答えて、三人そろって笑い声をあげた。


「で、だ。オルレオの師匠はアタシらを最前線に連れてってくれそうか?」


 半月ほど前のことだ。ガイは三人に向かって「最前線に引っ張って行ってやる」と言っていたのだ。


「あ~、直接聞いては無いけど、多分大丈夫だと思うよ」


「そう思う根拠は?」


 ニーナの問いにオルレオは笑った。


「そりゃ、十年もあの人の弟子をやってるからね」

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