第121話 反省のち青春
「んじゃあまずは、依頼を受けたところからだな」
モニカが腕を組み、ん~っと唸るように顔をしかめて一言。
「これに関しちゃもうあれだな。依頼内容を完全に舐めてた」
「そう、ですね。ハッキリ言って、ただの牛一頭を相手にするだけと考えてしまって、たのが今回の最大の失態です」
モニカの言葉に賛同するようにニーナが付け加えて、フッと何かを思い出したようにオルレオへと向き直った。
「そういえばオルレオはいつ頃に、どうして相手が魔獣じゃないか、と思ったのですか?」
うん?とオルレオは軽く首を傾げてからしばらく考えて。
「いや、う~ん? いつからってそういう意識はなくて、何となく? かなぁ? ほら、俺って魔獣絡みの依頼ばっかり受けてたから自然とこう、敵は魔獣って頭になってたのかも?」
オルレオからすれば、自分は何かを考えて考えて思いつくのではなく、何となくこうなのかも、多分こうなのかも、と直感的に判断してきたわけでニーナの様にいつごろからとか、どうしてと問われても明確な答えは出なかった。
「なるほどな、んじゃ、これも今後の課題だな」
「これって?」
「お互いの意識とか意見の違いってのをすり合わせること、だ」
「ああ、なるほど」
モニカの言いたいことに、ニーナは気が付いたらしいが、オルレオからするとてんでわからなかった。
「つまりはもっときちんと話し合おう、ということです」
「そういうこと、今まではアタシやオルレオが流れで話を進めて、ニーナが上手いこと形を整えて、そのまま勢いで突っ切ちまってたけど、今後はお互いに遠慮せずに感じたこと考えたこととかをもっと煮詰めていう必要があるんじゃねーかってこと」
モニカがかみ砕いた説明でオルレオも理解して、ちょっとだけ尻込みするように顔がゆがんだ。
「ん? なんだよ、お前、そんな微妙そうな顔しやがって……」
「いや、ほら、だってさ、俺の意見とか考えなんて言ってもそんなもんとっくに二人からすればわかってることなんじゃないのかなって……」
オルレオからすれば本当に心の奥底から思っていることを口にしたのだが、どうやらそれがモニカはお気に召さなかったようですごい目でオルレオを睨みながら。
「ハァ」
ため息一つでオルレオの意見を切って捨てた。
「そもそも、オルレオの言う通りなら、私たちはあの大牛を相手に油断なんてしていなかったでしょうし、今頃こんな反省会もしていませんよ?」
変わって優しげな声で、ニーナはオルレオが勘違いしているのだと諭してくれた。
「そ、アタシらだって間違いもすれば、考えがすっぽ抜けてたりすることだってある。お前からしたら当たり前のことだって、アタシらからすりゃ予想外のこともある。だからまずは意識や意見を言い合おうってわけ、
「わ、わかった」
短くそれでいて覚悟した声がオルレオから響いた。
「んで、次、大牛と出逢うまではそこそこよかったと思うけど……」
「私としては、もう少し事前に情報を集めておくべきだったのではないかと思います」
そういってニーナは自分の意見を述べていった。
「結果として大牛とは遭遇できましたが、想定していた草原の水飲み場ではなく、森の中でしたし、大牛と聞いていたのが魔獣だったわけですし、もう少し事前準備、特に依頼主から直接話を聞いたり村で聞き込みをしたりしてもよかったのではないでしょうか?」
「あ~、確かに、そうかも」
今度はオルレオが同意の声を挙げた。
「俺も依頼を何回か受けたことあるけど、特別というか変わった依頼については依頼主と話してたりしてた。というか、依頼主から直接依頼受けて酒場に届け出に来てた」
「なるほどなぁ、そこら辺はアタシらの経験不足が出た感じだな。アタシとニーナはほっとんどギルドからしか仕事受けてなかったから」
「では、今後、酒場で特異な依頼を受けるときは情報収集を怠らない、というおとでいいですか?」
オルレオとモニカの二人が強く頷いて、ニーナが少しだけ嬉しそうに笑った。
「最後、大牛と戦うところなんだが……」
「俺としては連携不足、というより、連携したときの決め手とか攻撃のパターンみたいなのが欲しいな」
真っ先に声を挙げたのは意外にもオルレオだった。
「……たしかになぁ」
「言われてみれば」
モニカとニーナが賛同するように呟いたの聞いて、オルレオは自分が思っていたことをとつとつと語り始めた。
「たしかに、陣形をとってお互いがお互いの邪魔をせずにフォローしあえるようにはなったと思うんだけど、この間の時は向こうがタフだったから俺らが幾ら攻撃しても致命傷にはとどかなくて、それでちょっと苦戦したところがあるから……」
オルレオの話を聞いて、モニカとニーナが少しばかり考え込むように間をおいてから。
「う~ん……」
「難しいですね」
そうとだけ声を発し、オルレオは不安になりながらも二人が何か言うのを待った。
「まず、アタシにはオルレオがああまで敵と近接してると使える大技がねえ」
「私としては、突進力のある敵に襲われる可能性があると大技を使う準備が難しくて」
返ってきた答えはまず二人の力量の問題からだった。
「今までアタシとニーナの二人だったときは、なるべく敵の数が多い依頼を受けて、アタシが風魔法で、ニーナが魔術で遠距離からガンガン仕掛けて打ち漏らしを処理していくって形だったんだけど……」
モニカがまるで反省するように項垂れながら言うと、ニーナも困ったように説明を始めた。
「私は魔術を使うには、まず弓を大きくさせて威力を上げてからじゃないと他の魔術が使えず、かといってそうなると機動力がガタ落ちで……」
「アタシも風魔法を使いこなせてるかっていうとそうじゃなくて細かい制御が苦手だから範囲が広い技しかなくて……」
「今のまんまじゃ、攻撃のパターンとかは作れないってこと?」
二人が頷くのを見て、オルレオは努めて明るく言った。
「じゃあさ、まずは出来なくてもいいから、ああしたい、こうしたい、こうなりたいっていう、目標を作ろう!」
「「目標?」」
「そう、今は出来なくても、自分たちでああしたい、こうしたいって考えて、それに何が必要になるかをみんなで考えよう。そうしたら、俺たちがこれから何をしていかなきゃいけないかがわかるはず!」
その言葉に、パッと二人の顔がほころんだ。
「いいなそれ!! とりあえず何かないか考えてみようぜ!!」
「あ、早速なんですが思いついたことがあります!!」
テーブルに座った三人は反省会の途中だというのに生き生きと話を始めて楽し気に夢中になってああだこうだと熱を帯びて言い合いを始めた。
その熱はかなりの時間が経ってもまだ収まっておらず。
「おう、ただいまっと……」
店の主が冒険者ギルドに謝罪と説明に行って帰ってからもまだ続いていた。
「なあ、あれ、どしたの?」
マルコが随分と不思議そうにエルマに聞くと。
「青春ってやつよ」
微笑ましげな声で返ってきた。
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