第115話 狩猟か、討伐か
オルレオ達はその日のうちに出発した。昼前にレガーノの街を出てから冒険者ギルドで借りることが出来る馬車で鐘二つ時ほどをかけてルーテへと向かい、そこから鐘一つ時を歩いて水辺に近い森の中まで三人はやって来ていた。
近くの水辺に大型の生き物が滞在していた痕跡がないことを確認したところ、既に太陽は傾き始めており、そこでオルレオ隊は今日の探索を中止、野営することにした。
「それじゃあ、俺とモニカでテント張り、ニーナが狩りと周辺の警戒ってことでいい?」
「ええ、それで」
かねてから決めていたとおり自分たちの役割を再確認したオルレオ達は、それぞれの行動を始めた。
ニーナはスッと気配を消しながら野営地を離れていき、オルレオはバックの中からテントの骨組みになるワイバーンの骨を取り出した。
翼の部分にあたる上腕骨と尺骨、大腿骨や脛腓骨の部分を加工したもので、これを八本ほどを円形に並べて中央部分で立てかけて重なった部分をロープで結ぶ。
あとは骨組みのまわりを翼膜や皮材で囲んでしまい骨組みの根元を杭で固定したらテントの出来上がりだ。
初めてのときは手間取ったりもしたものだが、何度か経験した今ではかなり早い時間で出来るようになったのではないか、とオルレオは自負していた。
が、オルレオが隣で作業していたモニカを見てみると、とっくに終わっていたようで周囲の草刈りに移っていた。火を使った時に燃え広がったりしないようにするためだ。
ならば、とオルレオは野営地をぐるっと囲むように生えている樹木を利用してロープを張っていく。人の足首くらいの高さで一巻き、膝くらいの高さでもう一巻き、最後に腰の高さでもう一巻きして鳴子をつけていく。
「お! もう終わったのかよ、だいぶ手際よくなってきたじゃねーか!」
辺り一帯の草を刈り終わって、ついでに石釜土まで組み終わっているモニカに比べるとそんなに仕事をした気はしないが、それでもこうして褒められると悪い気はしないオルレオだった。
「モニカに比べればまだまだだよ」
「ま、こういうのは慣れだからな、慣れ」
ふふん、と胸を張るモニカを見て、オルレオもつられて笑った。
「じゃ、薪拾ってくる」
「おう! んじゃ、頼むわ」
言って、オルレオは野営地の外へとロープを抜けて出ていった。
目当てに探していくのは落ちて乾燥している枝葉だ。これは太いものから細いものまでとにかく数が必要になる。朝まで火を絶やさないようにするにはそれだけの燃料が必要になるからだ。
「もうだいぶ暗くなったな……」
ある程度の数を集めてさあ戻ろうか、というときに空を見上げてみると既に陽が傾いていた。
「急いで戻らないとな」
暗くなったのなら尚更早く火が要るようになる、そう考えてオルレオは急いで野営地へと戻った。
「おや、遅かったですね。オルレオ」
先に戻っていたニーナが出迎えてくれたのを見て、オルレオは少しだけ慌てた。
「ごめん、すぐに火を起こすよ」
モニカが組んでくれていた石釜土の中に薪木でやぐらを組み、その中に松や杉の葉、白樺や松の樹皮を細かくちぎって放り込む。そこにバックから取り出した
「それ、便利だな」
横で見ていたモニカが興味深そうに着火棒に注目していた。そこでオルレオはそれをモニカに手渡しながら。
「着火棒って言って“妖精の釜”っていう
「ふぅん……見た目ただの金属なのに火が点きやすいってのも面白いもんだなぁ」
こんこんと叩いたり、表面を触ってみたりと確認しながら、モニカは火にかざすようにして金属の光沢を確かめていた。
「これって、火に近づけすぎたら燃えたりすんのかな?」
「やめて!?」
「いや、やるわけねえだろ?」
ほら、といってモニカは着火棒をオルレオに向かって投げ渡した。
「それじゃあ、今のうちに焼いてしまいましょうか」
ニーナが細かく切った肉片を刺した串を、釜土の周りに並べて今日の夕飯が始まった。
「で、どうだった?」
「ここから少しのところにあった水辺もダメでした。大型の獣が居た痕跡はないですね」
モニカの問いかけに、ニーナは淀みなく答えた。
「ってことは、明日からはここから東に水場を見て回るわけか」
オルレオが確認するように聞くと、モニカが実に面倒くさそうに。
「ま、そうなるな」
「どこかの村で待ち伏せ、という手もあるにはありますが……そうすると村や畑に戦闘での被害が出る可能性がありますからね」
地図を広げながら丁寧に答えたニーナ。
「お? この辺焼けてね?」
少し考え込むようにして地図を見るニーナを横目に、モニカは串を手に取って肉にかぶり付いた。
「あ!? モニカ!?」
「お、こっちもいけそう……いただきます」
「オルレオまで!?」
ニーナが明日以降の行動について考えようとしていた横で、二人が相次いで肉を食べ始めるのを見て、慌てて地図を畳んだ。
「ま、考えたりなんやりすんのは後でいいだろ、まずは飯にしようぜ」
ニーナが地図を腰のポーチに仕舞ったのを見計らって、モニカはいい具合に焼けた串を手渡した。
「って言っても、何か考えるようなことってあるのか? このまま東に行くだけじゃなくて?」
肉を噛み切りながらオルレオがそもそもの疑問を口にする。オルレオからしたら別に今これから考えるようなことなど無いと思っていたのだ。
「それはまあ、今回のは討伐というよりは狩りですからね……その辺普段と違って気をつけなくてはいけないことも多いです」
「魔獣と違って、普通の動物だったら逃げちまうからな……あらかじめ追い込めそうなところとか、そういうとこも探しとかなきゃいけねえんだよ」
ニーナとモニカがそれぞれの経験から必要だと考えていることが、ようやっとオルレオにもわかった。わかったが、それが二人とオルレオの違いを浮かび上がらせた。
「でもさ、本来ならいないはずの野生の大牛で、手に負えないような奴なんだろ? だったらさ、魔獣だったりするんじゃないの?」
ずっと、オルレオはウシ型の魔獣を追いかけてきているつもりだったのだ。
「俺はてっきり、魔獣だからいつもみたいに縄張りに入り込んだら攻撃を仕掛けてくるもんだと思ってたんだけど」
オルレオ的にはこのまま目立つように水辺沿いを目立つように進み、向こうを先に見つけて仕掛けるか、見つかって逆撃で仕留めるかの二択で考えていたのだ。
「いやいや、そんな……」
「さすがに、無い、とは思うのですが……」
が、モニカとニーナは普通に野生動物の狩りのつもりでいた。だからこそ痕跡を集め、地形を把握し、計画的に追い詰める算段でいたのだ。
「でも、ありえないわけじゃない」
オルレオの言葉にモニカとニーナが首を縦に振った。
「じゃ、その辺は臨機応変に動こうよ。狩りのつもりで準備しても討伐のつもりで準備してもやることは変わらないんだし」
そう言って串焼きに手を伸ばしたオルレオが、二人にはほんの少しだけ頼りになるように見えた。
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