第104話 野盗退治3

「といっても、連中の尻尾を探し回るのはオイラ達の仕事。君たち三人はアジトにたむろしている野盗連中をボッコボコにして捕まえつつ、首魁しゅかいについては上手いこと取り逃がして欲しい」


「ふつう逆じゃないか? 手下は逃がしてもいいけど、えらい奴は逃がしちゃいけないんじゃ?」


 フレッドから告げられた依頼内容にオルレオが口を挟んだ。


「フツーならな、でも今回は違うだろ? 野盗のあたまが黒幕の手下で、下っ端連中は何も知らない構成員だ。だから、頭を逃がす」


 モニカの説明を受けても、オルレオは理解しきれずにいた。


「んで、頭が逃げて上役と連絡を取るのを待つか、上役が頭を殺しに来るかを待つんだよ。じゃねーと尻尾を掴むのも大変だ」


「捕まえて口を割らせるんじゃダメなのか?」


 ある程度は理解できたオルレオがさらに疑問に思っていることを問いかけた。


「そうですね。それもいいですが、野盗の頭もどうせ大したことは知りませんでしょうし……。ですから、このように泳がせておいて、そこから少しずつ少しずつ手繰っていった方がより上の方までたどり着くことが出来る。そういうことでしょう」


「……なるほど」


 そこまで詳しい説明を聞いて、ようやくオルレオは「なるほど」と納得の声をもらした。


「……お二人さんが全部説明しちゃったからオイラが説明することが無くなっちゃったねえ」


「『無くなっちゃったねぇ』じゃねーよ、野盗連中の規模にアジトの場所と警戒状況、連中の動き、説明することは山ほど残ってんだろーが!!」


 お気楽におどけて見せたフレッドに、モニカが鋭くツッコミを入れて、ニーナがうんうんと頻りに頷いていた。オルレオは、というと「おお!」と感心したように声を挙げている。


「はは、冗談冗談、とりあえず実際に見てもらった方が早いかな?」


 言って、フレッドが椅子から降りて手招きしてから歩き始めた。フレッドに先導されながらツリーハウスの上へと上がるハシゴを昇りきる。


 そこが野盗のアジトを見張る場所だ。望遠鏡でアジトを見つめているものが二人、アジトから延びる道を監視しているのが三人、そしてこのツリーハウスの周辺を警戒しているのが四人だ。


「野盗連中がアジトにしているのは放棄された砦。資料によると、旧王国がレガーノを建設中に使ってたものらしい」


 オルレオ達三人がかわるがわる望遠鏡でアジトを見ている間に、フレッドが説明を続ける。


「野盗連中は把握しているだけで十七名。装備はしっかりと揃えられていて主に槍、剣で武装、弓使いはそのうち六名ほど。あたまっぽいのは、一人だけボロッちいマントを着けた槍使い。こいつだけは馬に乗ってるし、多分間違いないんじゃないかな? んで、アジトまでの道はロクな整備がされていない獣道。連中が下生したばえや枝は切り取ってるから通れるには通れるって道があるだけ。ほかに聞いておきたいこと、ある?」


 オルレオ達三人は確認したアジトの形状と、フレッドからの説明を聞いて少しだけ考えた。


「獣道は馬が全力で走って通れるのか?」


 まず初めにモニカが質問を始めた。


「うん、馬で逃げ出すならソコしか速度は出せないだろうね。野山を行くって手もあるだろうけど、どうしても速度が落ちるだろうし」


「野盗の警戒状況はどのようなものですか?」


「意外と真面目にやってるみたいだね。昼に三人、夜に四人。砦の屋上に常時二人、道の見張りに一人。夜間はこれに砦の周りをぐるぐる回って警戒してるのが一人増えてる」


「連中が全員揃う時間帯っていつ?」


「夕方くらいかな? 昼に何人かが偵察に出て、獲物になる隊商を探す。そして夕方に戻ってきて、襲いに行くか、休むかするってところ」


 次いで、ニーナ、オルレオが聞いて、フレッドが答えたところで、モニカが苛立たし気に口に出した。


「見逃したのか?」


「何を?」


「野盗どもが隊商を襲うのをみすみす見逃したのかって聞いてんだよ」


 静かに、冷たく、モニカが睨みつけた。すくみ上りそうなほどの怒りを孕んだ目をまっすぐに受けているフレッドはと言うと飄々とした態度を崩さずにいた。


「いや? 野盗連中は襲撃を掛けようとしたけど引き返していったみたいだよ? 何故か知らないけど、隊商の護衛が先んじて野盗を見つけてたみたいでね。割に合わないって判断したのか、手を出すことなくアジトに戻って来てた」


 不思議なこともあるもんだ、とニコニコしているフレッドを前に、モニカはため息を吐いて目を閉じた。


「テメエ、ホントに食えないやつだな」


 呆れた風ではあるもののモニカの声に先ほどまでの冷たさはなくなっていた。


「そうでもないさ」


 対してこちらは何も変わらず、何事もなかったようにただほほ笑んでいた。


「でも、そんなこんなで何度か襲撃に失敗してたせいで連中も警戒してるのか、それとも困窮し始めてきたのか、ココ何日かは昼に偵察に出てる人数が増えてるんだよね」


「……つまり、連中はどこかで野営している隊商を見つけたらまず間違いなく襲うってことでいいのか?」


 楽し気に告げたフレッドに対して、オルレオは真剣な表情で見つめながら聞いてみる。


「多分ね。襲撃に失敗し続けたってことは、食べ物が手に入らなかったってことだし」


 そこに何かを感じ取ったフレッドが期待を込めた視線をオルレオに合わせた。


「ならさ、わざわざ連中のアジトを攻めるんじゃなくて、隊商を襲おうとしたその横っ面を引っ叩こう」


 オルレオが力強く言い切ったのに合わせて、モニカとニーナが頷いた。


「はっ、いいじゃねーか。連中に吠え面かかせてやろーぜ!!」


「確かに、連中の動きを読むことが出来れば、より安全に仕掛けられそうですね」


 どう猛な笑みを浮かべながらモニカがオルレオの意見に賛同すると、ニーナもそれに乗っかった。


「と、なると、野盗連中が襲いそうな隊商の見極めと、逃げる方向が分からない野盗の頭の追跡、ついでに連中のアジトの家探しをオイラ達が一挙に引き受けるってわけかい……」


 フレッドが今までの笑みの一切を放り投げて、心底面倒くさそうな顔を晒した。

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