第101話 初陣
初日、闘技場で衛兵隊を相手に連携を確かめたオルレオ達は、2日目と3日目を野外での訓練に当てた。かといって、何か特別なことをしたわけではない。“陽気な人魚亭”で発行されていた、はぐれ魔獣の討伐依頼や、魔獣たちから住処を追われ、人里に迷惑をかけるようになった獣の狩猟依頼を受けていたのだ。
それでも、三人で息を合わせて行動する感覚を養うことは出来た。
魔獣相手では、オルレオを最前衛に立ててモニカが遊撃、ニーナが補助としてガンガン討伐を進め。
獣の狩猟ではニーナが弓で仕留めやすいようにモニカとオルレオで獣を追い立て。
そして、道中ではニーナが警戒、オルレオが斥候兼素材拾い、そしてモニカがニーナの護衛兼何かあった時の保険として。
三人それぞれが自分の役割を確立できたことが大きな成果となった。
♦♦♦
「つーわけで、いい依頼見つけられたか?」
約束の日。モニカはさっそくパーティー用の面談ブースに席を着いて開口一番にクリスへと迫った。
「はい、すぐにでも皆さんに取り掛かっていただきたい依頼が一つ」
そのクリスの口ぶりがあまりにも真剣そのもので、オルレオはピリッとした空気に耳をすませるようになり、ニーナはスッと目線をクリスが持っている資料へと移した。軽口をたたいていたモニカでさえ、だらしなく座っていた姿勢を改めて、続くクリスの言葉を待った。
「こちらをごらんください」
クリスが机に地図を広げた。地図の北にレガーノがあり、そこから南に街道が伸びていき、港街であるガローファまでが描かれていた。その道中、街道のあちらこちらに赤色でバツ印がつけられている。
「現在、レガーノではダヴァン丘陵とエテュナ山脈の二方面作戦を抱えています。そのため、都市近郊だけでは食料や資材などの物資が調達できずに商会を通じて、ガローファから輸入している状況なのですが……」
クリスがトン、トン、トン、とバツ印が付けられているところを指で押さえる。
「騎士隊が作戦のため巡回を行えず、かといって傭兵にも別の仕事を依頼していて、街道の安全確保に人手が確保できず、そのせいで野盗による襲撃が相次いでいます」
そのクリスの言葉に、ピクリとモニカが眉尻を上げた。
「流通が増えて、警戒の目が弱くなったところを狙われてるわけか……クソ忌々しい」
吐き捨てたついでに舌打ちまで追加して、不機嫌を隠すことなく続けた。
「今んとこ、被害としちゃどうなってんだ? 荷の幾らかを分捕られただけか? それとも……」
「幸いのところ死者は出ていません。各商会が隊商を組んでレガーノを目指していたみたいで、積み荷を放棄してその隙に逃げたり、護衛が撃退したりで負傷者や積み荷の損害がでてはいるようですが……」
そこに、ニーナは違和感を覚えた。
「妙ですね、レガーノとガローファを結ぶ街道は今まで警備がしっかりしていたので野盗の類が潜伏するには難しかったはずです。短期間でこれだけの襲撃を起こせるほどの人数が集まるものでしょうか……?」
思案顔で地図を見つめるニーナの横で、オルレオが手を挙げた。
「そもそも、ガローファまでの街道に今まで野盗が出たりしたことはあったのか?」
そもそも事情がよくわかっていないオルレオの問いに、真っ先にモニカが答えた。
「そりゃあな……つっても出ても週に一度あるかないかってとこだ」
次いで、ニーナとクリスが続く。
「街道にはレガーノの騎士隊が巡回の目を光らせてましたし、商人たちも念のための護衛を連れてるのが普通です。野生動物に襲われることもあるので」
「ガローファとの交易はこの街にとって重要なことですから、それだけ力を入れているんです。物流の活発化のために、冒険者ギルドからもたびたび街道の安全を守るために狩猟依頼や調査依頼を出していました」
「だっていうのに、急激に野盗が増えたってことは……警戒が弱まった以外に、何か理由があるってこと?」
オルレオの言葉に、三人が首を縦に振った。
「そういうこった……たんに野盗連中を捕まえてハイお終い、ってわけにはいかねーだろうな」
モニカが口角を吊り上げながら獰猛に笑った。
「ですが、原因の解明までとなると三人ではとても手が回りませんが……」
冷静に分析したニーアが苦笑いをしたところで、クリスがパンっと手を打った。
「はい、ですので、原因の調査については別の方に
クリスが力強く言う。
「ちなみに、アジトの場所については既に判明済みです。皆さんが依頼を受けると言ってくださればその場所をお伝えします」
グッとあごを引いて見渡すクリスに、三人はそれぞれのタイミングで頷いた。
「面倒ごとを他のヤツがやってくれるってんならありがてぇ、思う存分暴れてやる!!」
「そうですね、野盗を野放しにしておくわけにはいきませんし」
猛然とした雰囲気をそのままにやる気を滾らせるモニカと、あくまで平静を保ったまま意欲を燃やしたニーナ。二人の視線がオルレオに向いた。
「やろう、俺たちで」
決意に満ちたその言葉に応じるように、クリスが地図上のある部分を指し示した。
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