第102話 盗賊退治1

 冒険者ギルドからの依頼を受けたオルレオ達三人はすぐに支度を整えて、現地へと向かった。と、いうのも野盗のアジトを見つけたパーティーが張り込みを実施しているらしく、まずは早急に合流してそこで作戦を立てようと考えていたからだ。


 あくまでも街道に出没する魔獣を討伐に来たように見せるため、オルレオ達はレガーノから南に延びる街道を急ぐことなく歩いていく。ときおり顔を出す魔獣を倒しながら、あくまでも街道の見回りが仕事かの様に装いながら進んでいく


「……思ってた以上に馬車が多いなぁ」


 北上していく馬車隊とすれ違いながら、オルレオは小さな声で呟いた。


「そうですね。普通、野盗が出ていると噂が回れば人通りが少なくなるのが道理だとは思いますが……」


 ニーナも声を抑えながらチラリと前方から来る別の隊商を観察している。


「騎馬2、弓3、徒歩の槍が2……馬車の中にもまだ護衛が居そうですね」


 隊商側もオルレオ達に気が付いているのか、警戒するように徒歩の二人組が前に出てきて壁になり、騎馬の2騎は隊から少し離れるように前へと出てきた。


「それだけ、今のレガーノは稼ぎ時なんだろ。前に見える奴等も場慣れしてそうな感じだし……ちょっと高い金を払って傭兵を雇っても十分に利益が見込める、そう商人どもも踏んでるからこそ、だろうな」


 冷静な分析をつらつらとつまらなそうに述べていくモニカの顔を、オルレオは驚愕の表情で見つめていた。


「……モニカってもしかして頭いいの?」


「テメエ、それはアタシがバカに見えてるって言いたいのか?」


 こめかみがヒクヒクと苛立たし気に上下している。


「ああイヤ、ゴメン。悪気があったわけじゃなくて……」


 慌ててオルレオが頭を下げて、ニーナがクスクスと忍び笑いを漏らした。


「そういうところですよ、モニカ。すぐにカッカしてしまうから、偏見を持たれるんです」


 チっと舌打ち一つ吐いて、モニカが肩から力を抜いて、それを見たニーナがさらに「また、……もう」と注意してワンセット。一連の流れが終わったところで、ふう、とモニカが少しため息をついた。


「……お前も聞いてるだろう? アタシはこれでも領主の家に生まれちまったから、政治だの経済だの、そういう話も小さいころに叩き込まれてんだよ。だから、まあこうして最低限のことぐらいは判るわけだ」


 それで、落ち着きを取り戻して説明をするあたり、モニカも本当の意味では怒ってはいなかったのだろう。


「ああ、それで……」


 納得したように頷くオルレオに、今度はモニカが。


「しっかし、この程度で頭良いだなんて思うか? これくらいはフツーだぞ、フツー」


 そういうもんかなー? とオルレオが不思議そうに頭を捻っていたところで、隊商とすれ違い始めた。


「うーん……でも、さっきの説明とかって、すっごい『勉強してました』って感が出てて頭良さそうだったんだけど」


 オルレオの言葉に、モニカとニーナが思わず顔を見合わせていた。


「お前、もしかしてこれまで勉強したことないのか?」


 失礼な、と今度はオルレオが不満げに口に出した。


「ちゃんと文字の読み書きと計算は勉強した」


 再度、モニカとニーナは顔を見合わせた。モニカがふるふると首を横に振って、ニーナに向かってあごをしゃくった。それを受けてニーナは渋い顔をしていたが、やがて決心したように深くため息をついた。


「オルレオ? もしよければ、休みの日に勉強、してみませんか?」


 嫌がるだろうな、と思いながらニーナは恐る恐るといった様子でオルレオに聞いてみた。が、反応は真逆で。


「いいの?」


 と、すごく期待したまなざしで返されてしまった。


「……もしかして、勉強してみたかった?」


 コクリ、とオルレオが頷いた。


「師匠はさ、『文字の読み書きと簡単な計算については最低限必要だから教えてやる』って言って勉強させてくれたけど、『それ以上知りたいことがあるなら、将来お前が自分で稼げるようになってから誰かに教えてもらえ』ってそれ以上は教えてくれなくってさ」


 うきうきとした様子で足取り軽く進んでいくオルレオの後を、苦笑いのニーナとモニカがついていく。


「しゃーねーなー、なら今度の休みにウチ来るか? 勉強に必要なもんは大体あるからさ」


 モニカの誘いに「いいの?」ともう一度オルレオが嬉し気に声を挙げて振り返った。モニカとニーナの顔見て、本当に嬉しそうに笑って見せたが……一瞬、チラりとすれ違う馬車の中を見て素の顔を見せた。


 そのまま、前を向いてオルレオは今までの浮かれた様子で街道を進んでいき、モニカとニーナは隊商が離れていくのを待って、ゆっくりとオルレオに追いついていった。


「で、どうだったよ?」


 モニカの問いかけに、オルレオは振り返ることなく答えた。


「馬車の中に乗ってたやつらは完全に気ィ抜いてたと思うよ、半分くらい座ったまま寝てたし」 


「馬車の上に陣取っていた弓兵も随分と弛緩していた様子でしたね……矢筒こそ背負ってはいましたけれど、弓を手にしていませんでしたし」


 オルレオの答えに続けて、ニーナも感じていた違和感を述べた。


「野盗が出る街道を通過中だってのに、か」


 モニカが少しだけ考える素振りを見せて、すぐに顔を上げた。


「なんとなく裏が見えてきたような気はするが……その辺のことは専門のやつらに任せるか」


 モニカの言葉に、オルレオとニーナが頷いて、辺りを見渡し……人目につかないよう気を配りながら街道を外れて、林の中へと姿を隠した。 

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