第100話 模擬戦

 午後の模擬戦で、オルレオ達は、衛兵隊から三人一組スリーマンセル二つ、六人相手を五回繰り返すことになった。


 衛兵隊の方が人数が多いのは、戦力差の関係上仕方なく、である。なにせモニカを倒すには衛兵三人ががりでようやく、と言ったところなのだ。三対三ならオルレオ達が確実に勝ってしまうので、ハンデが設けられた。


 が、これが逆に衛兵隊のやる気に火をつける結果となった。


 模擬戦に出てきたのは、今、現場の第一線で活躍している部隊の兵士達だ。


 彼らは個の力では負けていても、力を合わせれば格上の相手を倒せることを実戦で証明し続け、街を守ってきた自負がある。


 そんな彼らだからこそ、最近名前が売れてきているオルレオと、既に冒険者として街の人々に名前を知られているモニカとニーナの三人組にハンデをもらってまで負けるわけにはいかなかった。


 なにせ、この闘技場の観客席は無料開放されていて、市民の娯楽の一つとして自由に見ることが出来るようになっている。


 ここで負けるようなことがあれば衛兵隊全体がナメられることになりかねない。


 それがわかっているからこそ、衛兵隊は気合を入れて、入念に打ち合わせをして、オルレオ達を迎え打とうとしていた。


「というわけで、あちらさんは全員、本気も本気で来るだろうから……勝ち目は薄いだろうなぁ」


 そんな様子をしっかりと肌で感じながら、モニカが冷静に、そして冷酷に事実を告げた。


 はっきりとそう言われたオルレオは、意外とでも言いたげに目を見開いていた。


「あなたが、そこまでいうとなると……本当なのでしょうね……」


 対して、付き合いの長いニーナは驚くようなこともなく、事実を事実として受け止めていた。 


 モニカが衛兵隊とよく手合わせしているのは知っているし、何度か見学したこともある。だからこそ、モニカの言葉が誇張でもなく、臆病に飲まれたわけでもないことはよくわかっていた。


「てことは、負けるの前提でぶつかるのか?」


 二人が真面目に負けることを受け止めているのを見て、オルレオもなんとなくそうなんだろうという想像はついた。かといって、やる前から負けるのを受け入れるのは何だか違う気がして、あえて挑発するような口調で問いかけると。


最初のうち・・・・・は、な」


 今度はモニカが牙を隠すように言い含めた。


「私達の連携を確かめるのに、一、二戦。相手の出方に合わせていくのにもう二戦。最後の一つか二つが取れれば良い、というところですか?」


 わかっていることの確認をする様にニーナが口に出す。


「そういうこった、それじゃあ、いいか? 作戦はこうだ…」



♦︎♦︎♦︎



 模擬戦の一回目は、予定通りのボロ負けだった。


 初っ端にモニカがいきなり相手に向かって飛び出していき、突出したところを敵の三人に囲まれて、オルレオとニーナが残りの三人を倒しきるまでにモニカが戦闘不能と判定されて、他勢に無勢で負けた。


 二回目は、モニカが突出することなくオルレオが前に出て敵を惹きつけた。ニーナが弓で敵を射止め、モニカがそのニーナを守るといった布陣だったのだが、結局時間切れで判定負け。


 三度目は、オルレオとモニカが二本槍のように二人で突っ込んでいって前線で戦い、ニーナが二人をそれぞれフォローする形を作った。しかし、オルレオが二人を相手にしている隙に、モニカ相手に残った四人で総攻撃を仕掛けら、また負けた。


 そして、四回目。


 今度は、二度目の時と同じようにオルレオ一人が前に出て、相手のうち二人を釘付けにした。残った四人がその横を左右に分かれて通り抜けようと動いたところで、その足が止められた。


 右から顔を出したところでモニカの剣先が頬をかすめ、左に足を進めたものは、ニーナの矢が降り注いだ。


 ならばと、真ん中にいるオルレオを攻め落とそうとするも、オルレオの前にいる二人ではその守備を抜けず。かといって囲もうとしたところを左右それぞれが邪魔されて手出しが出来ない。


 では、左右のモニカとニーナを各個撃破、といきたいところだが……モニカに三人でかかれば浮いた一人がニーナに集中砲火を浴びて落ちるし、かといってニーナに戦力を集中しようとすれば、モニカが自由になる。


 結局、各人に二人ずつがつく形で戦線が膠着し、時間切れになった。


 そして、五戦目。


 序盤の形は、四戦目と同じ。オルレオが真っ直ぐに突っ込んできて二人を相手取りに来た。


 前と同じ状況にされてはたまらないとばかり、衛兵隊から一人が飛び出してオルレオに向かってくる。


「セイ!!」


 気迫の込もった一線を突き込んできたその男の剣を、オルレオは盾の表面で滑らせるように受け流していき、勢いそのまま、男の身体を軸に回転してその後ろ側へと走り去った。


「よう」


 男の視界からオルレオが消えて、映り込んだのは両手剣を振りかぶった剣士の姿。


「悪りぃが喰らっとけ!!」


 上段からの袈裟に落とした一撃がまともに男を捉えて打ち据えた!!


 男はすぐさま戦闘不能とみなされてその場に寝転がったまま動くことを許されなくなる。


 その様を見た残った衛兵達は、まずはオルレオを仕留めるべし、と二人が前に立ってオルレオを待ち受けた。


 そのすぐ後ろに、残った二人が控えて、先ほどと同じ手が使えないように警戒する。


 それを見てオルレオは、吠えた。


「オオォォオオ!!」


 姿勢を低く盾を前に突き出すように構えて、敵目掛けて一直線に突き進んだ!!


盾突撃シールドチャージをオルレオから見た左の相手に叩き込み、右の剣で反対の敵が振り下ろした剣を弾く。


 するとそこに、矢が立った。剣を振り終わり、戻すことも出来ない一瞬を狙いすましてニーナが放ったのだ。


 すかさず、残った四人のうち一人がオルレオの左、盾を突き込んで無防備となった半身を捉えようと回り込んだところで、


「読んでんだよ!!」


 先回りしたモニカの突きを食らって後ろに吹っ飛んでいった。


 あっという間に半数が壊滅したところで、あとは消化試合だ。オルレオ、モニカ、ニーナがそれぞれ一人を倒して、五戦目はオルレオ達の勝利となった。

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