第65話 フランセス先生の魔獣講座2
「加えて、魔獣どもが
どう猛な笑みを隠すことなくフランセスは忌々し気に言い切った。
「もしかして前回の討伐の時にゴーレムは……」
「いなかったよ。つまりは……そういうことだね」
おずおずと遠慮がちに聞いたオルレオに即答し、フランセスは、はぁ、と小さくため息を吐いてソファの背もたれにぐったりと背中を預けた。
「今のところ、おまえたちが塞いだ穴以外の侵入口がないかの調査と、ウルカ村を前線拠点としての斥候、警戒、それと村の防衛設備の強化に各ギルドや領主さまと連携して当たることにして協議を始めているところさ……面倒くさいったらありゃしない」
鼻を鳴らして不満を口にしたフランセスに、オルレオはどこか申し訳なさそうに身をかがめた。
「なんか、すいません……」
「謝るこたないさ、おまえさん達が報告を挙げなくとも他の連中が遭遇してた可能性もあるし……鉄火場のど真ん中で明らかになることに比べりゃ、どうってこたないさ」
勢いよく、ガバッとソファから身を起こしたフランセスはまっすぐにオルレオの目を見つめて。
「よくやった、オルレオ。おまえさんのおかげでこっちは何とか先回りして手を打つことが出来そうだ。礼を言っとくよ」
「いや、そんな、別に運が良かったってだけで……」
唐突な誉め言葉に気恥ずかしくなったのか顔を赤らめておたおたし始めるオルレオを見ながら、フランセスはどこか楽し気に目を細めた。
「ま、運も実力の内だ。それに迅速に報告してくれたことも感謝の中に含まれていると思っとけ」
ニヤリとした笑みを隠そうとしないまま、フランセスが話し続ける。
「それで、今回の褒美についてだが……さすがに、これだけ短期間での昇格は認められなくてね。何か、欲しいものでもあるかい?」
その言葉に、オルレオはきょとんとした様子で、しばし動かなくなってしまった。オルレオからすると全くの予想外の展開で頭がついていかなくなったのだ。
「あ、いや、あの……そうですね、え~っと……」
動き出したと思ったら今度は頭をひねって何とか言葉を口にしようと唸り始めたではないか!
その
「あ! だったら、俺にもっといろんなこと教えてください!」
が、そんなフランセスの内心を吹き飛ばすように、オルレオはパッと思いついた願いを口にした。
今度は、フランセスがきょとんする番だ。
「教えるったって……何を聞きたいってんだい?」
「いや、俺って、この辺にいる魔獣の特徴とかもよくわかんないし、他の地域で出る魔獣なんて名前も知らないし……あと、冒険者ってどういうものなのか、とか、そういうことも知らないもんだから……」
しどろもどろに説明し始めるオルレオにフランセスの目は釘付けになっていた。普通、こういう時の定番といえば、金か素材、あとは酒か女といったところなのだが、それら一切に全くの興味を示さずに、オルレオは自分の欠点を補おうとしているのだ。
(滅多に見ないタイプ……いや、コイツはひょっとすると……)
ひょっとすると、己を高めることにしか興味のない修行狂いか、あるいは……高位にまで上り詰める一握りのホンモノの冒険者か、だ。
「ふっははははははは!!」
フランセスはぶるっと、自身が身震いするのを感じた。辺境のギルドマスターに就いてから始めてみた。自分が現役の頃、冒険者として全盛を誇っている時にたびたび見た上に昇っていく冒険者の器を目の当たりにして、フランセスは高笑いを止められなかった。
対して、オルレオは自分が何かおかしなことでも言っただろうか? 、と少し不安になりながらも、フランセスが次の言葉を発するのを待った。
しばらく、笑い続けたフランセスが落ち着くまで、奇妙な緊張感をオルレオは感じ続けた。
やがて笑いを止め、紅茶を口にして落ち着きを取り戻したフランセスは、笑みを浮かべながら口を開いた。
「そうさね、何もかもをアタシが教えるってわけにゃいかないから……おまえの担当であるクリスにも話を通しておく、気になることが出来たり、魔獣について聞きたきゃ、クリスに聞くといい」
「ありがとうございます!」
フランセスの言葉にオルレオは大きく頭を下げて礼を言った。
「だが、だからといって何もかもを部下に任せっきりってのも良くないからね、今日はこのまま、アタシがおまえにもう一つ、教えておこう」
おお、とオルレオは目を輝かせた。
「お題は『フランセス先生が教えるギルドの成り立ちと冒険者について』だ。冒険者連中でも知らないことが多い、というか知らなくてもいいことだが……おまえは知っておくがいいさ」
言ってフランセスは目の前にいる若者への期待に満ちた、今までで最高の笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます