第35話 翼竜対策2
「と、いうわけで
「オーケィ、オルレオ、ストップだ。俺の理解が追い付かねえ」
陽気な人魚亭に戻ったオルレオは昼食に焼き魚定食を頼んで舌鼓を打ちつつ、店の主であるマルコに相談を持ち掛けた。が、マルコはミッションについて説明するや否や頭を抱えてしまってどうにも話が進まなくなってしまった。
仕方がないので、オルレオはマルコの整理がつくまでの間、焼き魚を堪能することにした。ここより南にある港街から持ち込まれた魚の干物を直火でじっくりと炙ったものを麦を混ぜ込んだご飯と一緒にかっ食らい、野菜たっぷりのスープで流し込む。行儀の悪い食べ方だというのはよくわかっているが、それでもやってしまう。
ご飯も海の魚も初めて食べるオルレオだったが、ゆっくりとする暇もなく食べ終わってしまい、あっと思った時にはもう皿の中身は空になっていた。
食べ終わった食器を眺めながらがっくりと肩を落としたオルレオを、マルコはカウンターの向こうで頬杖を突きながら眺めていた。
「はあ、こうしてみてりゃあ年相応の少年って感じなんだがな……」
「あ、マルコさん……話の続きしてもいい?」
オルレオの言葉を聞いたマルコは、はーっ、と大げさにため息をついて肩を落とし、そこから深呼吸するように息を吸い込んで体を持ち上げた。その様子を、オルレオはいったいどうしたことかと不思議そうな目で見ていた。
「いいぜ……だが、残念だがココにゃ、
答えを聞いたオルレオは残念そうに眉尻を落とした。
「が、アドバイス程度いいなら俺がしてやる」
意外な申し出に、今度はオルレオの眉根が笑顔と共に跳ね上がった。
「ホントですか!」
「おおう、ホントもホントよ!俺とエルマはこれでも元2等2位の冒険者だからな!」
「って言っても、もう腕はさび付いちゃってろくに戦えないし、装備も残ってないけどね」
マルコの言葉を次ぐようにしてエルマもキッチンからカウンターにやってきた。
「で、なんだって、オルレオはうちの旦那何かに助言を求めてんのさ?」
「ギルドからの昇進ミッションで翼竜退治なんだとさ」
「はぁ!?この間登録済ませたばっかのニュービーにかい!?一週間も経っちゃいないだろうに!?」
「オーライ、その通りだ。だが、ここで言ってもしょうがない話さ、既にミッションは発令されてる、だろ?」
マルコが陽気に端的に説明をしたのを聞いて、エルマは一瞬、憤ったように声を荒げたが、すぐにそれを静めた。本当なのか、と問いかける代わりのように、エルマはオルレオへと鋭い視線を投げかけた。
それを受けて、オルレオは力強く頷いた。
「ギルドマスターから直々に」
短く告げた言葉に、エルマは納得したように天を仰いだ。
「それだけ認められたってことね……喜んでいいのやら、頭抱えりゃいいのやら……」
「両方ってところだな」
エルマの嘆きを、マルコが笑って受け止めた。
「それで?アドバイスって?」
身を乗り出すように効いてくるオルレオに、夫婦は顔を見合わせてわずかに笑みを漏らした。
「せっかちだな、オルレオは」
「アンタも若い頃はこんなだったわよ」
そういってもう一度二人は笑った。
「まずは……そうだな、翼竜退治のセオリーって何だと思う?」
マルコの問いかけにオルレオは自分が翼竜と対峙したときのことを思い出した。
「空から降りてきたところを叩く!」
「「惜しい!」」
オルレオの返答に、二人は声を合わせた。
「正解は、空から墜とす、だ」
「降りてくるところを迎え撃つんじゃなくて、魔法や矢なんかで敵の機動力を奪うのよ」
「え゛!?」
二人からの無慈悲な宣告に、オルレオからは嘆きとも驚愕とも落胆ともとれぬ奇妙な声を出した。
「そんな変な声を出すなよ。あくまでもセオリー、一般的なやり方ってやつさ」
「今回は使えない方法でも知っておいた方がいいことだからね、念のためよ」
一転してオルレオは安堵した。
「ソロの剣士ってんなら、そうさな……やっぱり狙いは降りてきたところで上手いこと地面に叩き落として翼の骨部分を折ることだな、そうすりゃ飛べなくなる」
「他にも道具に頼るって手もあるよ。錬金術で簡易の罠を造ってもらってそこに誘導して仕留めるとか、どう?」
なるほど、とオルレオは手を叩いた。二人からのアドバイスを参考に頭の中でどうにかこうにかして翼竜と戦うイメージを作り、なんとか形になりそうなところで、はたと気が付いた。
「そういえば、お二人が現役のころならどうやって倒してたんですか?」
「ん?ああ、俺とエルマでなら」
「アタシが魔法で翼を片方凍り付かせて」
「墜ちてきたところで俺が首を落とす」
「「慣れれば簡単(だぜ)(よ)?」」
息ぴったりで言ってのける夫婦を前にして、オルレオはまだまだ自分が未熟なのだと思い知らされた。
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