第32話 報告とこれから

「おーーーっす!!」

「おはようございます、オルレオ」

「おはよう!」


 翌朝、三者三様に挨拶を交わしながら三人は冒険者ギルド前で待ち合わせた。オルレオは、昨日得た戦利品を持ってきているが、装備品については腰に剣を佩いただけの軽装で、モニカも両手剣ではなく片手の長剣を下げており、ニーナは腰に大型のナイフを差しただけの格好だった。


「ごめん、遅くなった」


 二人を待たせる形になったオルレオは頭を軽く下げて謝罪した。


「いいってこっちも来たばっかだし」

「ですね、まだ鐘が鳴る前ですから遅れたとも言えませんし」


 その時、鐘が大きく三回鳴った。鐘三つ時、人々が仕事を始める時間だ。


「丁度良い時間だったみたいですね」

「だな、それじゃ、ちゃちゃっと報告してとっとと終わらせっぞ」

「うん、行くか」


 三人そろってギルドの入口までの石段をあがり、扉に手をかけてゆっくりと開ける。オルレオが扉を開け放ち、モニカとニーナが中に入ったところで、にわかにギルド内が騒がしくなった。カウンターの向こうで職員がどこかに駆けていき、反対にこちらに歩み寄ってくる職員の姿もある。


 オルレオがカウンターの中をくまなく視線で探ると、それに気が付いたクリスが小さく手を振ってくる。それを見て笑顔で手を振り返したオルレオだったが、サッとクリスが手を振るのを止めて視線を手元に戻した。


 同時、カツ、カツとどこか苛立たし気な足音をかき鳴らしながら、このギルドのトップ、フランセス・ガードナーがその姿を現した。フロアまでの道を堂々と、真っ赤な髪をなびかせて歩いてくるその様子はまるで燃え滾る炎が迫ってくるような圧を感じる。


「ようやく来たか」


 そんなフランセスがフロアまで出てくると腕組をしながら言う。たった、それだけのことがこれほど様に成るのは本人の見た目と気質が合致しているからだろう。


「んだよ、別に急ぎで報告しろとは言われてねーぞ」

「ん、それもそうなんだが……」


 フランセスはモニカから視線を逸らして、一瞬だけ視界の中にオルレオを捉える。それに気が付いたオルレオは自分を指さすが、その時には既に、フランセスの目はモニカへと戻っていた。


「昨日の衛兵隊からの緊急報告のせいで、昼から領主様や各組合ギルドとお話合いをする羽目になってね、それにお前さんらの情報が必要になりそうなのさ」


 翼竜ワイバーンのことだ、と三人の中で昨日の一幕が思い出される。


「冒険者ギルドとして、翼竜とは別にエテュナ山脈の魔物について報告を挙げる、と?」


 ニーナの問いかけにフランセスが頷いた。


「そう。翼竜対策で東、ダヴァン丘陵に目が向いているうちに西から魔物に攻め込まれました、ではそれこそ話にならんからね」


「ま、たしかにそうだわな」


 何か考え込むようにしながらモニカは頷いた。


「そこで、お前たちからの報告を直々に聞こうと待っていた、ということさ」


「なるほど」


 オルレオが頷いたところで、職員の一人がこちらに小走りでやってくる。


「準備が整いました」


 その報告にわかった、とだけ短く答えたフランセスは次いで、「ついてこい」とだけ告げて、ギルドの奥へと歩いてく。オルレオ達も後に続き、一階の奥、豪奢な内装で整えられた応接間だ。


「座ってくれ」


 応接間の奥のソファに腰を下ろしたフランセスに促されてオルレオ達も向かいのソファに腰かけた。真ん中にモニカ、その右にニーナ、左はオルレオといった順だ。


 オルレオは腰かけたあと、あまりにもふかふかとしたその感触に慣れずに幾度か座りなおしてしまう、がほか三人はそんなこともなく、むしろ体重を預けてくつろいでいる。


 全員が席に着いたところで紅茶が出され報告が始まった。昨日の出来事を時系列に沿って説明していく間に、気になった部分をフランセスが質問をし、そこを補足していく、という形式で進められた報告はさほど時間もかからずに終わりを迎えた。


「……以上が我々の調査結果になります」


 主に説明役を担ってくれたニーナが報告を終えたところで、フランセスは大きくため息をついた。


「これで西で魔物が群れをつくり始めているのが確定、か。嫌になるね、本当に」


 フランセスは、残っていた紅茶を一気に飲み干すと、カップを静かに音がしないように置いた。


「まあ、いいさ。今回の報告は会合で使わせてもらおう。モニカとニーナには当初のとおり報酬を準備してある、あとで受け取っておきな」


「ああ」

「はい」


 二人が適当な返事をしたのを聞いて、フランセスの視線がオルレオに固定された。


「オルレオへの報酬は等級の関係上、二人よりも安くなる……そこで、お前には特別に報酬を用意してやった」


「特別な報酬ですか?」


 思いもかけない申し出に驚いているオルレオに、フランセスは悪戯な笑みを浮かべながら頷いた。


「ああ、今日の報告を聞きながら思ったが、お前は五等級にしておくにはもったいないぐらいの実力があるみたいだからね……あたしの推薦ってことで飛び級での昇進ミッションを発令する」


 その最後の一言に、モニカとニーナは笑顔でオルレオへと視線を向け、オルレオは驚愕した表情で二人を見た。


「詳細はお前の担当、クリスに伝えておいたからあとでしっかり聞いておきな」


 フランセスはそこまでを言うと立ち上がって、入ってきた扉とはまた別、奥へと続く扉へと手をかけた。


「それじゃあ、今日はここまでだ。助かったよ、お前たち」


 言い残して、フランセスは扉の向こうへと消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る