第30話 追う立場

 北門はしばらく混雑した状況に陥った。


 門番たちが負傷者の治療と搬送、そして何が起こったのかの聴取に追われて入門手続きが一時滞ったからだ。


 もともと利用者が少ない北門ではあるが、何人かの手続き待ちの冒険者や商人らはいち早く情報を得ようとし、文句を言うことなくその場で待ちながら聞き耳を立てていた。


 そこに遅れた形でオルレオ達三人がやってきた。


「あぁん?こりゃしばらく時間かかりそうだな」


 どっかりとその場に腰を下ろしたモニカの隣にニーナが静かに座った。そんな中でもオルレオは立ったまま門の状況を見つめていた。


「座られないのですか?」


 不思議そうにオルレオを見上げながらニーナが聞くが、オルレオはその視線を北門と西を行ったり来たりとさせていた。


「オルレオ」


 小さく、しかし鈴が鳴るように耳へ響いたその声に、オルレオは自然と振り向いていた。


「あなたが一体何を気にしているのかはわかりませんが……それでも今は落ち着くべきです。後に何かがあったとき、疲弊した状態で戦えますか?」


 その申し出に、オルレオは素直に従い地面にあぐらをかいた。そしてゆっくりと深呼吸をしていく。


「すいません、ありがとうございます」


 冷静さを取り戻したオルレオがニーナに向かって頭を下げる。ニーナはニコリと涼やかにほほ笑みながら手を振った。


「んじゃ、丁度いいタイミングだ報酬の分配について話をしとこーか」


 モニカの一言で三人は集まって車座に座り、それから、北門の手続きが再開するまでの間に報酬についての話をすることになった。


「まず、ギルドからの報酬については各人がそれぞれ支給されると思いますのでそれについてはそのままでよろしいかと」


「だな、だけどよ。そうなるとオルレオだけもらえる額が少なくなるぜ?」


「あれ、そうなの?」


「ええ、通常、ギルドが発行するクエストについては、冒険者の等級に差がある場合は等級によって報奨金が異なります。どうしても等級の高いもの方が報酬もたかくなるんですね」


「つーわけで、だ」


 そういってモニカはゴブリンの魔石が詰まった袋をオルレオに投げ渡した。


「オルレオ、それ全部お前が持っていけ」


 いいよな、と軽い調子でモニカが問いかければ、ニーナは笑ってそれを了承する。


「……ダメだ、受け取れない。三分割にしよう」


 しかし、オルレオが頑なにこれを拒否した。


 自分一人であれば、確実に死んでいたからだ。生き残ることが出来たのは二人のおかげであるし、何より二人だけで挑んでいたならばもっと簡単に済んだ可能性のほうが大きいのだ。


 オルレオは自分が足手まといになっていた、それだけの実力差があることを感じ取っていたのだ。


「ま、おまえがそういうならそれでいいか……でもよ、オルレオお前、一つ約束しろ」


 しぶしぶといった様子ですべての報酬を三分割することに納得した様子のモニカはまっすぐにオルレオを見つめた。


「とっとと等級を上げろ。そしたらこんなくっだらないことで話す必要ねーんだからな」


「……それもそうですね。オルレオ、頑張ってください」


 二人がちょっと悪戯っぽく笑う姿に、オルレオは自分の胸が高鳴る音を聞いていた。何かを言わなければ、と頭を回転させるもそれが口から出ることはなく。しばしの静寂だけがそこにあった。


「ん、動き始めたな」


 全員の視線が北門へと注がれた。


「そんじゃ、行こーぜ」


 真っ先に立ち上がって進んでいくモニカの後ろを音もなく立ち上がったニーナ続いていく。オルレオは二人に遅れないように急いで立ち上がると小走りで後を追っていった。

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