第28話 森林調査3
オルレオはこれまでとは打って変わって森の中をずかずかと無遠慮に歩き始めた。足取りの先にはゴブリンがわざと残しただろう痕跡が残っている。その上をなぞる様に進むオルレオの後ろにはモニカとニーナが続いていた。
(本当に大丈夫なんだろうか)
突出した形になったオルレオは不安になり始めていた。孤立するかもしれないこの状況に心細さを感じているわけではない、こうして魔物側の思惑に乗って本当にいいものだろうか、と今更ながらに危機感を覚え始めていたのだ。
現に、こうして三人が通り過ぎた後ろでがさがさと小さな音が重なり始めている。オルレオはその雑な合奏こそが魔物に退路を断たれようとしている証のように受け止め始めていた。
それでもオルレオは事前に取り決めたとおり、振り返ることすらせずに歩き続けた。足を止めれば押さえこんでいる迷いや不安の種が芽吹くような気がして。歩き続けなければモニカとニーナを裏切るような気がして。進まなければ自分から逃げ出してしまうような気がして、オルレオは立ち止まることが出来なかった。
そうして、自分の中から沸き起こる気持ちに従いながら進んでいたところで、ふと、視界の端に何かが動いたをオルレオは見逃さなかった。
左手に剣を、右手に
オルレオはすかさず左足を下げて右半身を正面に屈みこむと盾を前面に構える。矢の群れを盾で受けつつあたりを見回すと、槍を持ったゴブリン共が突っ込んで来ようとしているのに気が付いた。
タイミングを合わせて突撃を行おうとしている槍部隊に、オルレオはあえて切り込むことにした。敵が呼吸を合わせる前にオルレオは自分の左側に展開していたゴブリンに食い掛った。
オルレオは飛び込むようにして一番先頭にいた奴が握っていた槍の穂先を左のバックラーで跳ね上げ、そのままの斬り下ろしで片付ける。そのまま囲いこもうとしてきた連中を円盾で押し込む。そうして数匹を纏めて釘づけたところで前蹴りを放って距離を取らせる。
その隙に、間近にいたゴブリンの首を切り上げの一閃で
残りの奴等が態勢を整えなおしたのを目にしたオルレオは瞬時に視界を巡らせる。
「オルレオ!!」
その中に声を挙げるモニカの姿を見つける。余裕綽綽といった
「目ぇかっぴらいとけ!!とっておきを見せてやる!!!」
その時、モニカの持つ両手剣へ目に見えるほどの勢いで風が纏わり、そして
「
叫びとともに荒れ狂う暴風が一気に解け放たれた!!
オルレオの目前を狂風が薙ぎ払い、ゴブリンの群れだけでなく木々までも一緒くたに吹き飛ばしていった。
「すっご……」
眼前の光景にオルレオは絶句するしかなかった。
「ぼさっとすんな!!ズラカるぞ!!」
声にハッとしたオルレオが見ると、既にモニカは逃走し始めていた。
「ちょっと待っ……」
オルレオも続いて走り始める。
先頭を行くニーナは獣道ですらない鬱蒼とした斜面を縫うように駆け下りていく。その後を追うモニカとオルレオ。道なき山肌を転がるように走っているというのに足下はしっかりとしており、逃げ出すのに不自由しなかった。
オルレオが後ろを振り向いてみれば、そこには暴虐を免れていたゴブリン共が波の様に押し寄せてきていた。
だが、こちらは足場を選ばずに降りてきているせいかあちらこちらで転倒し、さらに足場を悪化させていた。思うように進めないゴブリン共は倒れた仲間を踏みつけながらも前に進もうとするが上手くいかない。次々に転倒していき森にはポツポツト圧死したゴブリンが取り残されていった。
このままいけば、確実に逃げ出せる。その確信を三人がもてそうになったころに、それは現れた。
一塊になってすさまじい速度で駆け下りてくる影に真っ先に気が付いたのはモニカだ。
「なるほど、ああ使うわけか!!」
どこか楽し気な声で叫んだモニカの目線を追うようにニーナとオルレオが振り返るとそこには
「Woowooouuuu!!」
吠え猛りながら疾駆するオオカミとその背にまたがるゴブリンによる騎兵集団があった。
「さしずめ、ゴブリンライダー、といったところですか」
冷静に言うニーナに対してオルレオは焦っていた。
「ゴブリンライダーでも何でもいいけど!どうするんだ!?
「まもなく平地に出ます!」
ニーナが告げる。
「ヤるしかねーだろ!!」
モニカが笑う。
「ああ、もう!!」
オルレオが右手に剣を左手に円盾を握りしめた。
「森を抜ければ反転して迎え撃つ!!援護頼んだ!!」
大きく叫んだオルレオは一気に速度を上げて斜面を駆け下りて、やがて森が開けた。久しぶりに見えた空は日が傾き始めていた。
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