第23話 人づきあいの大切さ

 “妖精の釜”を辞したオルレオはまっすぐに“陽気な人魚亭”に戻ってきた。いつも通り無料になった日替わりメニューを注文したオルレオはイスに深く腰を掛けると、大きく息を吐いた。身体中から力を抜いて脱力する。へなへなと背筋が曲がってだらしない姿勢になったところで、店主のマルコに声を掛けられる。


「よっぽど疲れてるみたいじゃないか」

 マルコがオルレオの前にミルクで満たされたコップを置いた。

「注文してませんよ?」

 ミルクとマルコを見比べ、きょとんした顔をするオルレオ。

「なぁに、サービスさ」

 そんなオルレオの様子を見て、ニカッと白い歯を見せてマルコが笑う。

「それで?そんなに大変だったのかい?」

 カウンターに肘をつきながら、マルコが問いかけてくる。その言葉にオルレオは少しだけ考え込んで、正直な気持ちを話した。

「それが、自分でもよくわからないんですよね……」


 そのまま、オルレオはマルコに今日あったことを話し始めた。エリーから採取について教わったこと、双角ウサギの角集めのこと、オオカミやゴブリンと戦ったこと、そして、アトリエで報酬をもらった時のこと……

 あまり話をするのが得意でなかったオルレオだが、時折挟んでくれるマルコの相槌のおかげで、すらすらと話すことが出来た。

 話の途中でエルマが食事を盛りつけたプレートを持ってきてくれていたのに、それに気が付かないほど、オルレオは話をすることに集中していた。それはオルレオにとって生まれて初めてのことだった。

 

「ほら、食事を持ってきたからいったん休憩して食べな、冷えちゃったらマズくなるだろ」

 エルマが苦笑しながらオルレオに声をかけて。オルレオは目の前にプレートが来ていたことに気が付いた。


「いただきます」

 少しだけ恥ずかしい思いをしたオルレオはそれを隠そうとするかのように目の前の食事を一気にかきこんだ。今日のメニューは、鶏肉を蒸して甘辛いソースをかけたものと川魚の煮つけ、それと乾燥野菜とスープ、バゲットだ。

 鶏肉はソースと絡めるて食べるとパサパサした身に染みこんでグッと食べやすくなるし、川魚のほうは口にしたとたんに身に染みこんでいた旨味が解放されて幸せが広がっていく。

 乾燥野菜とバゲットはそれぞれスープに浸して食べていくのだが、野菜を浸すたびにスープの味が次々に変化して匙が止まらなくなってしまう。

 結局、オルレオはあっという間に食事を終えてしまった。


「で、さっきは何の話をしていたんだい?」

 食事を終えて少し落ち着いたところを見計らって、エルマが声をかけてきた。どうやら少し手が空いたようでマルコの横に並んでオルレオに話しかけてきた。

「あー、『オルレオ君は人づきあいをもっと頑張りましょう』って話だな」

 マルコが笑いながら茶化してくる。

「いや、なんでそんな話になるんですか?」

「簡単さ、オルレオ。お前さんは戦ったり野山をかけることには慣れてるんだろ?でも、今回はそれに妙に疲れてしまった、ここまではいいか?」

 未だ笑いながら説明をするマルコに、オルレオは何だか納得いかないような表情で頷く。

「んじゃ、お前さんがこうまで疲れた理由は一つ『同行者がいたから』さ」

 あー、と納得したようにエルマが笑う。

「そういや、今日はエリーちゃんと二人で森に行ったんだっけ、それで……」

 意味ありげな流し目でオルレオを見つめるエルマ。その目の奥には愉悦というか、好奇心に満ちた輝きが見えてきた。

 

「違いますよ!護衛の依頼だったから緊張しっぱなしで疲れただけです!」

 ムッとして言い返すオルレオに、急にマルコが真剣な顔をした。

「だったら、なおさら、だ。オルレオ」

「そうそう、もっと人づきあいは大事にしなさいな」

 エルマも先ほどの楽し気な表情とは打って変わった真面目な顔をしていた。

「一人で行動するってことは、休憩の時だろうと緊張を絶やせないってことだ。ろくに休むこともできずに、長期間行動することが出来ると思うか?」

「他にも、敵と戦ってた時に後ろから奇襲されることだってあるかもしれないわね……一人で戦うってことは余程の強者じゃなきゃ、恐ろしいものなのよ」

 二人の言葉にオルレオは何も言い返せずに言葉を詰まらせてしまう。


「戦うときだけじゃないぞ。同業者としっかりコミュニケーションを取っておかないと情報交換できずに美味い話を逃したり、危険なヤマを掴んじまうかもしれない」

「街の人と仲良くするのも重要よ。買い物したりするときに嫌われてたりとかしたら拒否されることだってあるんだから」

「ウっ……」


「つーことだから、今後は依頼なんかで誰かと同行したりしてみろ。色んな奴と行動することで見えてくるものだってある」

「それと、色んな依頼を受けるのも重要よ。依頼を出してくれてるのは街に住んでる人なんだから。依頼を通じて色んな人に会って、話をしてみたらいいわ」

 マルコとエルマが一転して優しげな声で語りかける。それを聞いたオルレオは素直に。

「わかりました。とにかく頑張ってみます」

と、ぺこりと頭を下げた。

 


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