第36話 私を旅行へ連れてって

 好子は旅行のスーツケースを二つも持ってきた。今回の列車旅行をかなり楽しみにしていた。

 魔法少女は、兵器と車を除いた公共の交通機関の利用を禁じられていた。例えば、日本の法律では、彼女たちが列車の切符きっぷを買うことは違法だ。

 これは、逃げ場のない車内で、うっかり、寝言で魔法を使われたら大惨事となるからという理由である。

 そのようなわけで、列車を経験したことがない好子にとって、この旅は初めての経験であった。


 そんな好子を横目に、サニーは緊張した面持おももちで、汎用はんよう列車型決戦兵器に乗った。

 10両目にある鋼鉄のドアが無造作に開かれたままだ。そこをくぐりぬけると、シートが並んでいた。

 格調の高い黒い牛革であしらえた特別な二段シートが、4列ほど並んでいた。

「いよいよ、敵の陣地に乗り込むわけね」とサニーは口をきゅっと結ぶ。

「先輩!早く、席に着きましょう。汎用列車型決戦兵器が出発しちゃいますよ」

 好子ははしゃぎながら、自分の席を探した。


 そのとき、車掌しゃしょうらしき女が声をかけてきた。

「あの、失礼ですが、お二人とも、招待状はお持ちですか?」

 好子とサニーがそれぞれ招待状を見せると、車掌の女は満足げな顔をして、おじぎをした。「大変失礼しました。ジーパン様とサニー様。私はこの汎用列車型決戦兵器の車掌です。この4日間の旅におともさせていただきます。名前を九院くいん 玲於奈れおなと申します。早速さっそく、お部屋にご案内しましょう」

「部屋?」とサニーが聞き返した。

「そうです。これからおとまりいただく個室です。ツインをご用意いたしましたので、どうぞ、こちらへ」

 車掌は別の車両へ移るよう、彼女たちを手招きした。


 てっきり、予約席のシートが用意されているかと思ったが、どうやら違うらしい。列車の旅が初めてなので、好子はとまどうばかりだった。

 好子たちは、窓づたいにせまい通路を通っていくと、古い装飾がほどこされたドアの前まで来た。

 ドアの前で、車掌が立ち止まった。「部屋はオートロックです。部屋のキーをどうぞ。ドアに、このキーをタッチすると開けることができます」

 薄いカード型のキーを手渡された好子は、それをドアノブに押し当てた。甲高かんだかい電子音とともに、ガチャリとカギが外れた音が聞こえた。

 見た目は古そうだが、最新の技術が使われたドアなのだろう。


 好子たちは、車掌にお礼を述べた。

 自分の仕事ぶりに納得したかのように、車掌の女は、ゆっくりとお辞儀じぎをした。「また、何かご用がございましたら、部屋の内線電話でスタッフにお申しつけください」と言うと、その場を去った。

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