第35話 A汎用列車型決戦兵器でいこう

 警察に届いた招待状には、差出人の名前はなく、会社の名前だけが書いてあった。念のため、ケニ屋に問い合わせたが、その招待状は本物であるとの回答が返ってきた。手違いではないようだ。

 すると、おかしなことになる。

 彼女たちは、ケニ屋を調べている警察の人間なのだ。

 わざわざ、こんなイベントに呼ばれる筋合すじあいなどないのである。


「おそらくワナだわさ。この汎用はんよう列車型決戦兵器に二人を呼んでおいて、ひそかに殺すつもりなのだわ」

 黒子の言うとおりだった。

 サニーもそれは否定しなかった。そうですねとアゴをなでた。「あたしが思うに、ワナの可能性は高いでしょう。ですが、それに乗ってみるのも、一つの手かと」

「手?」

「そうです。17歳さん。向こうの出方でかたにもよりますが、私たちを襲ってくる連中をつかまえれば、そいつらから情報が得られるんです。これは、大きなチャンスになります」

「危険だわ」と黒子が止めようとした。


 しかし、サニーの決意は固かった。

「大丈夫です。警部さんからの情報によれば、社長のルンルン美樹は、海外に出張中で、当分、帰ってこないそうです。留守の今がチャンスなんです。行かせてください。お願いです」

 とうとう、黒子は根負けして、許可を出した。「いいけど――でもね、連絡をおこたらないように」

 好子も当然ながら志願した。だが、サニーとは別の動機で、だった。


 翌日のお昼、メッセージカードに書かれてあるとおり、県警本部前に、リムジンの車が2台止まった。

 キスができなくなることを警戒した好子とサニーは、1台のリムジンに乗ることにした。出発前に、二人は離れ離れにならないことを約束したからである。

 車の中で、いざとなれば、ヤッタ・ゼフラン・キスの法則を用いて、キスして逃げることを互いに確認しあった。

「そのためには、絶対に、私から離れないで。ジーパン。いい?四六時中、ずっと私のそばにいて」

「もちろんです。サニー先輩。いつでもキスできる場所にいます」

 リムジンの運転手には、恋人同士の会話に聞こえただろう。


 さて、リムジンが広島駅に着くと、すでに、汎用列車型決戦兵器「疾風怒濤しっぷうどとう」が駅の在来線ざいらいせんホームへ到着していた。

 駅のホームでは、何事かと言わんばかりに、大勢の人が汎用列車型決戦兵器へ殺到さっとうしていた。その列車は、黒い鉄に全身をおおわれている。昔の新幹線をほうふつとさせるフォルムだった。列車の先端がとがっているのではなく、丸くふくらんでいるのだ。さらに、爆弾にびくともしなさそうな頑丈な窓が車両にはめられていた。

 列車は11両である。細長く巨大なので、駅からはみ出しそうだった。


「あれに私たちが乗るんですよ!」と興奮を隠せない様子で、好子はさけんだ。

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