第37話 おっとり捜査官友好子

 車掌が去った後で、部屋に入った好子たちは、まず、その豪華さに驚かされた。

 ただ、豪華ではない。

 その個室には、木の机が壁に備えてあり、二つのベッドは、大きなダブルベッドだった。天井には、シャングリラがきらびやかに光っていた。革張りの安楽イスが置いてあったので、そこへサニーは腰かけた。

「校長先生が座っているイスみたい。それに、この部屋は、待機室と同じく、魔法で空間をゆがめて広めているのか。本当に至れり尽くせりね」とサニーは感心するように言った。

 好子は、大人が5人ぐらい並んで寝られるようなダブルベッドへ飛び込んだ。やわらかい羽毛布団が、好子の体を包み込んだ。

「すぐにでも寝られそう」と好子は喜んだ。


 それをサニーは見とがめた。

「何やってんの。ジーパン。観光旅行じゃないのよ。あたしたちがここへ来た目的、忘れたわけ?」

「忘れてませんよ。奴らが襲いかかってくるのを待ちます」

 奴らとは、BB団の事だ。

 好子とサニーは、幹部である衝撃のタキシードがケニ屋の社長であることを証言できる人間なのである。正体を知る彼女たちをき者にせんと、BB団の連中が襲ってくるのは間違いないだろう。その連中から情報を得ようというのが、サニーの作戦だった。好子もまた、その考えに乗った。

 だが、それはタテマエだった。

 好子の本音は、列車旅行を純粋に楽しみたかっただけなのであった。


 一方、サニーはスマホを取り出して、汎用列車型決戦兵器と呼ばれる列車の時刻表を入念にチェックしていた。

 サニーたちが乗った列車は、広島駅を14時42分ちょうどに発進する。今から約十分後だ。

 大阪駅で折り返して、四日後、再び広島駅へ戻ってくる。各駅停車ではないらしい。「ベッドで寝るときも、電車が走り続けるのか」と、サニーは、ふと独り言をつぶやいた。


 そこで思い出したかのように、サニーは黒子へ電話をかけた。

「17歳さん、今、汎用はんよう列車型決戦兵器に乗りました。――ええ、こっちは何も異常がありません。安心してください。――はい、わかりました。また、20時ごろに電話します」

 定時連絡を済ませると、初めてサニーはふうと息をつき、ベッドへ横になった。目をつぶって、好子へこう問いかけた。「ねえ、ジーパン。さっきの車掌は、奴らの仲間だと思う?」


 ぽんぽんとベッドの上ではねて遊んでいた好子は、面倒くさそうに「違うんじゃないですか?」と答えた。

 彼女は物腰が柔らかくて、明らかに敵ではないよう気がした。BB団の団員にしては、敵意が見受けられなかった。

 好子がそう話すと、サニーは首をひねった。

「そうかしら?表面上は優しそうに見えても、実は悪党かもしれない。あたしたちを油断させるつもりかもね」

「考えすぎですよ、先輩」

「とにかく、警戒をおこたらないで」

「はい」と口先だけ、はきはきと好子は答えた。

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