第32話 逮捕ちゃうぞ

 ケニ屋の捜査をしていた刑事課に、顧問弁護士が乗りんこんできた。それから、捜査本部はこの捜査を取りやめてしまった。

 要するに、警察が大企業の圧力に負けて、捜査方針を変えてしまったということである。その事実に、琴海警部は、怒りを覚えているのだ。

 だからといって、そこの社長をいきなり逮捕するのは、あまりにも無茶ではないかと好子は考えた。


 黒子も同じことを考えたらしい。

「頭を冷やすのだわさ。たいした証拠もないのに、社長の逮捕状は取れないのだわ。仮に、ケニ屋がBB団とつながりがあっても……だわさ」

「それはわかってる!」と琴海は机をグーの拳でたたいた。

 その勢いで、ティーカップがかたかたと揺れた。


 好子が恐る恐る手を上げた。

「……あのう、17歳さん、琴海警部さん、お二人に質問があるんですが、今、魔法機動隊って、BB団の捜査を禁じられているんですよね?」

「そうだわね」と黒子が答えた。

「じゃあ、捜査本部では、ケニ屋がBB団と無関係だと認めたわけですから、魔法機動隊は大手を振って、ケニ屋の内偵ないてい調査をできますよね?」

「それはもちろん。できるわね」と今度は琴海が肯定した。

 好子はそれを聞いて、にやりと笑った。

「だったら、私たち、ゼロハチ小隊だけで、やりましょうよ。魔法を使って、そのケニ屋っていう大企業の正体をあばいてやるんです」


 琴海の目が輝いた。

「やってくれるの?本当に?」と琴海は身を乗り出した。

 黒子は好子をちらりと見て、「まあ、課長や捜査本部や、ケニ屋の顧問弁護士に気づかれないように、こっそりとやれば……」としぶしぶ認めた。

 それを聞いた琴海は、この機をのがさんとばかりに、スーツの内ポケットから一枚の写真を取り出して、こう言った。

「さっそく、みんな、見てちょうだい」


 写真には、二人の人物が写っていた。

 一人は、車を降りて建物へ入ろうとする金髪の派手な女性である。

 もう一人の部下らしき人物が傘をさしてあげていた。黒髪をヘアピンでたばねて、地味な印象があった。横顔ということは、遠くの物陰ものかげから撮られたものだろう。

「この写真は、私の部下が本社の前で撮影したものよ。今までの調べで、私たちは、この二人を捜査対象にしぼりこんだわ。一人はケニ屋社長のルンルン美樹みき、26歳。経営のトップで創業者ね。もう一人が社長秘書で――」


 そのとき、写真をじっと見つめていたサニーが大声を上げた。

「ウソだ!」

 いっせいに、皆の視線がサニーが集まる。彼女は驚いた顔をしていた。恐怖すら入り混じった表情である。

 好子は「どうかしたんですか?」とたずねた。

「好子!あんたも、あの写真の人物の顔をよく見てみなさい!」とサニーは叫んだ。


 言われたとおり、好子は写真をじっくりと観察した。

 写真の中央に、金髪のすらりとした女性が立っている。その金髪女が社長のルンルン美樹だろう。スーツ姿であるが、口紅が赤くて目立つ。

 好子は、はっと息をのんだ。


 確かに見たことがある顔だ。

 忘れたくても忘れることはできない。

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