第31話 商店ケニ屋

 開けたのは警部の琴海だった。「ねえ!黒子いる?」

 彼女の顔には、鬼気迫ききせまるものがあった。さすがに、刑事たちをたばねる警部だけあって、迫力は恐ろしい。

「17歳さんは隊長室にいらっしゃいますが……」とサニーが、隣の隊長室を指さした。


 なにかあったのだろうかと、好子は身をふるわせた。

 そのとき、隊長室の中から、黒子が現れた。「騒々そうぞうしいだわさ」とぽつりと言う。

 琴海が彼女へ駆け寄った。

「黒子!――あんた、ケニ屋っていう会社知ってる?」

「知ってるも何も、有名な日本の会社だわさ」と黒子がのんきそうな声で答えた。

「だったら頼みたいことがあるの。……今すぐ、私とその会社へ行って、社長を魔法でつかまえてちょうだい」

「意味が分からないだわさ。とりあえず、そこへ座りなさいな」


 興奮した琴海を落ち着かせるために、来客用のソファに座らせる。黒子が魔法をとなえると、ソファの前のテーブルに、かわいらしいティーポットとティーカップが並べられた。そのポットがふわりとちゅうを浮かんで、カップに紅茶を注いだ。

 琴海は紅茶を飲んで、深呼吸をした。

「だいぶ落ち着いたわ。取り乱してごめんなさい」

 そう謝ると、ティーカップをテーブルに置いた。


 黒子は心配そうに声をかけた。「何があったのだわさ?事情を聞かせてほしいのだけど」

「順序を追って、最初から話すわ。私たちはね、BB団の資金源を探していたのよ。先日、ついに、それを突きとめたの――」と琴海が語り始めた。


 琴海の話によれば、刑事課では、BB団の資金の流れを調べていた。魔法はお金を使うので、通常の犯罪組織よりも、お金を多く必要としていた。

 そこで、アジトとなった廃工場の関連会社を調べていくと、「ケニ屋」と呼ばれる広島の企業が捜査線上に浮上した。

 ケニ屋は世界有数の大企業である。11年前に創業された。パソコン、テレビ、自動車、スマホ、ロボットなど、ありとあらゆる製品のBIOSとOSを開発して、配布しており、世界市場のシェア率が99.9パーセントにものぼる。BIOSとOSというのは、機械を操るための制御ソフトで、これがなければ、どの電気製品も動かないのだ。

 

 琴海は、ケニ屋の退職した社員たちを探し出して、BB団との関係を聞き出した。元社員たちの証言によれば、会社の上層部が、稼ぎ出した金を組織の人間に手渡していたそうだ。

 

 そこまで話すと、琴海はため息をついた。

「――信じられる?世界トップクラスの大企業が、たかが犯罪組織の言いなりなのよ?しかも、上納金じょうのうきんをキャッシュで悪党へ手渡し」

「それはひどいだわさ」と黒子が腕組みをする。

「でしょ?で、BB団が接触するかもしれないから、部下たちに、ケニ屋の社長を見張らせたわ。そうしたら、昨日、会社の顧問弁護士――メガネでキザっぽい奴ね――がウチにやって来て、『会社は事件と無関係だから、イメージをそこなう捜査をやめてくれ』って、ほざきやがったの。で、さっき、捜査本部の会議で、確かに無関係であるからって、ケニ屋の捜査の打ち切りが決まったのよ。こうなったら、もう社長を逮捕して、自白させるしかないじゃない!」

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