第30話 名探偵退場

 まず、手始めに、好子とサニーは、隊長の黒子へ、見張りの警官のことを聞いてみた。

 もちろん、今、魔法機動隊は、BB団の関与を禁じられているので、それとなく遠回しに聞いた。

 しかし、返ってきた答えは、あまりかんばしいものではなかった。


「あの日、廃工場に、警官は配置されていなかったのだわさ。他の署に問い合わせてみたけども、あれから行方不明になった警察官はいないわ」と黒子が言った。

 好子とサニーはがっかりした。

 どうやら、ニセ警官らしかった。


 では、だれなのだろう。

 はたして、あのニセ警官の正体はだれなのか。

 どうして、あんな時間帯に、警官のふりをして、一人で工場の入口に立っていたのか?


 黒子が隊長室に入ると、二人は、待機室で話し合った。

 歩きながら考えていた好子は、一つの答えを出した。

「――ひょっとしたら、BB団の関係者じゃないですか?」

「どういうこと?」と机に座ったサニーは聞いた。

「あのニセ警官はBB団と仲間グルだったんですよ。だって、あの時、私たちが工場で魔法のワナにはまってから、すぐに、タキシードが現れたでしょう。タイミングが良すぎだと思いません?」

「たしかに」

「外で見張っていた仲間が、タキシードのやつに知らせたとは考えられませんか?先輩」

「なるほど。ジーパン。案外と、あんたの言うとおりかもしれない」


 好子は推理を聞かせているうちに、サニーへ、それが事実なのだと確信させることができた。

 タキシードが部下に命じて、ワナをしかけた工場を監視させた。そこへ好子たちがやってきた。その部下は、ワナが発動したのを見て、急いで、幹部のタキシードへ連絡したのだろう。そう考えれば、つじつまは合う。


 サニーは机から立ち上がった。

「ニセ警官が、上司のタキシード女を呼んだってことまでは認めるとして、問題はどうやって彼女を探す気?」

「へ?」と好子は聞き返した。

「へ?――じゃないでしょ。ジーパン。工場が消滅した後、死体も残っていなかったのよ。つまり、ニセ警官は行方不明のままでしょう。もし、あいつがBB団の仲間なら、今ごろ逃げてしまって、行方をくらましているわけ」

 つまり、捜査はふりだしに戻った。


 だが、好子はこの捜査に充実さを感じていた。

 事件を推理して、謎をほぐしながら、また、新たな謎にぶつかる。


 これだ。

 私が欲しかったのは、こういうことなのだ。


「サニー先輩、なんか、こういうのって、楽しいですね」

 好子がうれしそうに言うと、サニーはあきれてしまった。「あんた、本当に探偵ごっこが好きなのね。ジーパン」

 どんなに、サニーに皮肉を言われても、好子は平気だった。

「その探偵ごっこがしたくて、警察官になったんです」と言いきった。

 それを聞いたサニーは苦虫をかみつぶしたような顔をする。「ジーパン、それは、とんでもない見当違いね」


 続けて、サニーは、警官の本分ほんぶんが町の治安を守ることだといた。だから、推理を楽しむのは、本来の仕事ではないのである。

 しかし、好子にとっては、説教など馬耳東風ばじとうふう、どこ吹く風だ。彼女は肩をすくめて、「はーい」と適当に相づちを打っておいた。


 その態度がサニーのシャクにさわったようだ。

「あんたはわかってない!」と、サニーは、ぴしゃりと言い放った。

 さらに、なおもサニーが小言こごとを言おうと、好子に近寄ろうとした。そのとたん、待機室のドアが勢いよくひらいた。

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