第28話 少女は如何にして心配するのを止めて金を愛するようになったか

 待機室では、4人の少女たちがいた。

 そのうちの一人、巴月は、姿を現した麗美に向かって言った。

「サニーから連絡をもらって、心配になって、見に来たんだろ」

「うん」と一言、麗美は、か細い声で言った。

「じゃ、話は早い。サニーへ言ってやってくれないか。魔法少女の前では、銃と刀は無意味なんだってことを」

「……そうね、無意味」


 しかし、サニーは納得しなかった。

「でも、さっきみたいに、迷彩魔法を使って透明になって、不意ふいを突けば、マジカル拳銃チャカでも敵を倒せるじゃありませんか」

 腕組みをして、うんうんとうなずきながら、巴月はこう言った。

「そうだなあ。確かに、相手が油断してりゃ、どうってこともないぜ。それだったら、なにも魔法少女でなくたって、魔法を使えない刑事たちに任せりゃいいんだ。油断している魔法少女なんて、すぐに捕まえられるんだ。問題は相手が待ち構えているときだ」

「待ち構えているとき?」とサニーが問う。

「犯罪者が犯罪を犯しているとき、だ。――そのときは魔法で自分の身を守ろうとする。警察につかまりたくないからな。わかりやすく実演してやろう。こういう魔法を知ってるか?」


 そう言うと、巴月は何やら呪文を唱え始めた。終わりに、こう叫んだ。「強化魔法ラエ・ジュ―エネ!」

 サニーが生まれて初めて聞く呪文だった。

 巴月の全身が金色の光にかがやく。巴月は、マジカル拳銃チャカを持っている麗美のほうに向かって、こう頼んだ。「おい、アームド。撃ってみろよ」

 麗美は銃を構えて、巴月にねらいを定めた。そして、ためらいもなく、引き金を引いた。

 パンというかわいた音が聞こえたかと思うと、銃口から煙が立ちのぼる。続けて、二、三発も麗美は撃ち続けたので、たまらずサニーが止めに入った。

「もういいです。アームド先輩。わかりましたから――」


 サニーの鼻に、つんとする火薬のにおいが刺さった。好子もその臭いに顔をしかめた。

 麗美が発砲を止めると、もうもうと立ちこめる煙の中から巴月が現れた。輝いたままの彼女は銃に撃たれても、けろっと平気な顔をしている。

「どうだ?これが強化魔法だ。体に当たった銃弾や刀剣をね返すんだ。30秒間で、4千円かかるけどな。おっと、これは自動継続だったな。すぐに止めないと、金がかかっちゃう」と巴月は、強化魔法を解除する呪文をとなえた。


 魔法を止めると、巴月はサニーたちのほうへ歩いてきた。

 どこもケガがなく、にこにこと笑っている。

 サニーと好子は、口をあんぐりと開けたまま、二の句をげないでいた。

 巴月はあっけらかんと言い放つ。

「な、わかっただろう?金がありゃあ、この強化魔法をずっと使えるんだ。もっと高価な魔法なら、弾よりも速く動けるし、戦車の砲弾にも耐えられる。力も何倍だ。……だから、仮に魔法の武器で戦っても、金を持っている魔法少女が絶対に勝つんだ。これが魔法少女のルールなんだよ」


 その日、魔法機動隊は、BB団関連の事件の捜査から正式にはずされた。

 今後、一切いっさい、BB団と関わらないように、という指示を黒子隊長から受けたサニーと好子は、怒りのあまり、自分たちの机をった。

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