第27話 子猫は眠らない

 ゼロハチの待機室の中で、どこからともなく、麗美の声が聞こえてきた。「……そうですね。私の武器でも無理でしょう。今度また、BB団の幹部が現れたら、真っ先に逃げなければなりません」


 え?


 驚いた好子とサニーは、あたりを見回した。

 この部屋にいるのは、好子とサニーと、それに、巴月の三人だけのはずである。ほかに人はいない。では、この声はどこからなのだろう。


 巴月がふふっと笑って、「おい、アームド。かくれんぼはやめて、出て来いよ。後輩たちがとまどってるだろ」と誰もいないはずの壁に向かって呼びかけた。

 すると、壁の一部がゆがみ、じょじょに人の形になっていった。

 こんの道着に、はかまをはいた少女が姿を現した。

 剣が収められた木のさやを、背中にひもでつるして、両手には、黒光りしている小さな銃が握られていた。

 アームドと呼ばれるかまど 麗美れみだ。


 落ち着かない様子で銃を握りしめながら、麗美がひとみを左右に動かしていていた。

「こんにちは、ジーパンさん……」

「アームド先輩、アイサツをしながら、こっちへ銃口を向けないでください」と好子が叫んだ。

「ご、ごめんなさい」

 麗美はそう言うと、自分のマジカル拳銃チャカをゆっくりと下ろした。それきり、彼女は黙ってしまった。


「……ところで、よくわかりましたね。アームドさんが魔法で透明になっているって」とサニーは感心した。

 へへ、と言いながら、巴月はまた、鼻の頭を指でこすった。「アームドとは、何年もコンビで組んでいるんだ。こいつの行動ぐらい、なんでもお見通しなんだぜ。おおかた、後輩たちの仕事ぶりが気になるから、迷彩めいさい魔法を使って、お忍びで、ここへやってきたんだろ。なあ、アームド?」


 麗美が何度もうなづく。

「ほらな」と巴月が胸を張った。

 サニーは麗美の方を向いて、質問をした。

「いつからです?アームドさん、いつから、この部屋へ来たんです?」

「……」

「もしかして、朝からずっと、いたんですか?」

「……」

 返答はなかったが、どうやら、サニーの言うとおりらしい。

 ということは、さきほどの悪口も聞かれたかもしれないと気づいた好子はぞっとした。


「あの……その……」

 目をきょろきょろさせながら、口の中で、もごもごと言葉にならないことを麗美は話した。

 なんでも白黒をはっきりさせておきたいサニーの性格からすれば、この麗美の態度は耐えきれなかったようだ。サニーは会話を打ち切った。


 一方で、麗美の相棒である巴月は、この性格を面白がっている。

「あはは!アームドは優しくて後輩思いだなあ!」と巴月は屈託くったくなく笑った。

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