第25話 おねがいマイ・アームド・レディ

 昼前になって、ようやく起き上がったサニーは、前を見つめたまま、好子にこう告げた。

「戦力の増強が必要ね」

「なにを、いきなり言っているんですか?まだ寝ぼけているんですか?」とあきれ顔で好子は聞いた。

 サニーの目は、寝ぼけまなこであったが、口をきゅっと引き締めて、真面目に言っている様子だった。


 しっとりとした髪をとかしながら、サニーは何かを決心しているようだった。「ジーパン、あんた、このゼロハチ小隊には、他にも、2人の先輩隊員がいることを知っているよね?あの人たちにお願いするのよ。今日、来てもらうよう、連絡を入れておいたの」


 もちろん、好子は2人のことを知っていた。当番制なので、めったに会うことはなかったけれど。

 一人は、かまど 麗美れみ。ニックネームは「武装淑女アームド・レディ」である。

 ショートヘアの地味な魔法少女であった。中学2年生であったが、顔がどことなくおさない。そのため、小学生に間違われることがある。武闘家ぶとうかが着るような道着とはかまを着ていて、いつも、ひっそりと机に座っている。

 それなのに、なぜ「武装淑女アームド・レディ」という物騒ぶっそうな名前がつけられたかと言うと、つねに、背中にマジカルポンとうと呼ばれる日本刀をぶら下げて、腰にはマジカル拳銃チャカを付けて、手にはマジカルメリケンサックの手袋をはめて、全身を武器で固めているからである。


 もう一人は、正反対な性格で、向こうから声をかけてくるタイプの魔法少女だった。名前は、ほむら 巴月はづき。麗美と同い年だ。いつもは、髪をポニーテールにしている。

 彼女のニックネームは「コムラ」である。

 巴月は、4年前の入隊式に参加したとき、突然倒れこんだことがある。そのとき、「うおっ、こむら返りがきやがった!」と叫んだため、以後、コムラと呼ばれるようになった。

 当の本人は、気にしておらず、「ま、機動隊のみんなに、顔と名前が覚えてもらえて、むしろ、ラッキーじゃん」と言ったような前向きな姿勢が、逆に同情を誘った。


 水と油のような二人だったが、不思議なことに、仲が良かった。

 一方的にしゃべりまくる巴月に対して、おとなしい麗美は、振り子のようにうなずくだけなのである。会話が成立していないように好子は思えてならなかった。


「――アームド先輩とコムラ先輩なら知っています」と好子は二人の姿を思い浮かべた。

 だが、巴月も麗美も、今日は非番のはずだった。

 わざわざ呼び出して、何をお願いする気なのだろうか。

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