第23話 彼女と彼女の事情

 好子は目がさめると、自分が魔法機動隊の待機室にいるのに気がついた。

 床に布団がかれて、その上へ寝かされていたのだ。彼女の体は毛布で包まれていた。Tシャツにジーパンを着たままだった。

 かたわらには、サニーが同じく、毛布をかけられて眠っていた。


 起きて、好子がいだいた最初の疑問は、きわめて単純なものだった。

「……あれから、何時間たったんだろう?」

 待機室の大きな窓からは、まぶしいくらい光が差し込んでいた。窓が東寄りだから、朝のはずである。

 ということは、一晩、ここで眠ってしまったということだろうか。

 そんなふうに、好子が考えこんでいると、隣の部屋から声が聞こえてきた。


 ゼロハチ小隊の待機室は、実際は、壁で二つに分かれている。一つは隊員たちが使っていて、もう一方は、隊長室として別に使われている。

 その隊長室から、二人の女性の声が聞こえてきたのだ。

「――そうだわさ。BB団は本格的に日本へ侵入してきたのだわ」

「だとすると……大変なことになりそうね」

 一人は黒子で間違いないだろう。もう一人の声は、昨日会った穂神ほのかみ 琴海ことみという警部の声に似ていた。


 どうやら、二人の会話からさっするに、深刻な話のようだ。

 興味をおぼえた好子は、隊長室へ続くドアに、自分の耳を当てて、話をこっそり聞くことにした。

「黒子、これは、町の治安をるがしかねない事件よ。ぜひ、魔法機動隊には、捜査本部へ合流してもらわないと」と琴海警部らしき声が言った。

「……課長へおうかがいしてみなければ、わからないだわさ」と黒子が答えた。

「上の意向なんて無視すればいいじゃない」

「あんたと相棒を組んでいた昔とは違う。今はもう――そこにいるのは誰だわさ?」


 隊長室のドアが開いた。

 急に開いたので、好子は盗み聞きをしている姿勢のままで、黒子にアイサツをしなければならないハメになった。

「お、おはようございます。17歳さん」

 黒子がみけんにシワを寄せていた。「起きていたのね」

「さっき、目をさましたばかりなんです」と好子は言いつくろった。


 きっと、怒られる。

 どうしよう。


 だが、好子の予想に反して、黒子は何もとがめなかった。むしろ、好子の身を案じていた。

「昨日は災難だったわさ。どこか、ケガをしてなかった?――そう、それなら、よいのだけど。大丈夫だいじょうぶそうなら、話を聞かせてちょうだい」

 黒子に問われるままに、好子は昨日、廃工場で起きたことを話した。新幹線の爆破計画のことや、魔法のワナや、衝撃のタキシードに襲われて眠らされたことを伝えた。

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