第22話 億万長者と決闘をする方法

 あっというまの出来事だった。

 サニーは何もできなかった。彼女は、睡眠魔法を使いたかったが、そのような高等の呪文を使うには、実力が足りなかった。

 敵の魔力が圧倒的に上なのだ。

「――でも、まだ、キスの効果が残っている」と自分に言い聞かせながら、サニーは炎の魔法で対抗しようとした。

「無駄な抵抗はおやめなさない。あなたがわたくしに勝てる見込みは、万に一つもありませんわ」

「……やってみなきゃ、わからないじゃない!」


 サニーの言葉に、衝撃のタキシードは冷ややかな笑みを浮かべた。

「だって、わたくしの資産は6兆8千億円ですもの」

「ろ、6兆8千億円!?」

 サニーはけたの間違いではないかと考えた。そんな数字はありえない。敵はウソをついているのだろうか。

 しかし、タキシードはこう断言した。「ハッタリではありませんわ。さきほどの睡眠魔法も5000万円以上はしますのに、わたくし、キスをしていませんよ」


 炎の呪文を唱えるのをやめたサニーは、タキシードの女をにらみつけた。

「ずるい!魔法を使いたい放題じゃない!」

「ほほほ……」とタキシードは手に口を当てて笑いながら、「魔法少女はお金が全てなのですよ。下賤げせんな庶民では相手になりませんわね」

「お金がすべてじゃない!」とサニーは反論したが、冷静に、頭のすみっこで、欲しかったバッグとクツが6兆円でどれだけ買えるかを、計算していた。

「さあ、降参なさい。わたくしたちの仲間になるのなら、命を助けてあげるわ」


 このままでは、勝ち目がない。サニーは考えた。こちらは3分という時間制限があるが、向こうは、お金があるかぎり、いつまでも半永久的に好きな魔法を使うことができるのだ。

 あと1分で、キスの効果が切れる。

 だとすれば、残された時間を、逃げることについやした方がよいだろう。

 サニーが知っている魔法で、この場を脱出できそうな魔法は、いくらかあった。瞬間移動のような魔法も知っている。

 問題は、工場の入口で眠らされている好子である。

 彼女を助けようとサニーが近寄れば、タキシードから攻撃されるかもしれない。そんなそぶりを見せたら殺されるだろう。

 見捨てるべきだろうかと、サニーが迷っていたとき、天井から声が降りそそいだ。


 ――おのれ、タキシードめ。これでも、くらえ。


 大きな鉄のかたまりが、タキシードの女の頭上へ落ちてきた。よく見ると、かつて、工場で使われていたクレーンの滑車かっしゃだった。

 ほぼ不意打ちだった。

 工場の攻撃を予期していなかったタキシードは、もろに、鉄の滑車に当たってしまった。


 サニーにとって、願ってもないチャンスだった。

 タキシードが死んだのか、生きているのかはわからないが、好子と共に逃げ出す時間を作ることができる。

 彼女は大急ぎで、寝ている好子のもとへ駆けつけた。

 好子の腕をにぎると、サニーは脱出するための魔法を唱えた。「なんじは時空間を超え、いざなう者なり。ここから我らを救い出したまえ。移動魔法ガーラ・ドーナウィ!」


 次の瞬間、二人の姿は、まばゆい光に包まれながら消えていった。

 それを見ながら、第三工場が最後にこう、つぶやいた。


 ――わらわに命をくれて、感謝するのじゃ。ありがとう

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