第21話 衝撃のタキシード

「結界魔法デ・スルフィー!」とサニーは高位の魔法を使った。

 サニーと好子の体が、ころものように光の玉に包まれる。そのまま、ふわりと浮かんだ。

 結界魔法には、魔法の効果をち切る効果がある。さらに、光に包まれた物体を思い通りに運ぶことができるのだ。


「地面の泥よ!元の姿に戻れ!凝固魔法タワロ・レンターラ!」

 泥の地面は、好子の魔法によって、元に戻っていった。


 二人がわなから脱出すると、拍手はくしゅの音が聞こえてきた。

 初めは、第三工場の出している音かと思われたが、それは違っていた。工場の入口から、音がもれてきたものだ。

 誰もいない夜の工場で鳴り響く音は不気味だった。


 好子は怖がって、サニーの腕をつかんだ。もしかすると、お化けかしらと考えたからだった。

「音が近づいてきている……」とサニーは状況をべた。


 拍手をしているぬしが、工場に入ってきた。

「お化けですよ!先輩!」と好子が叫んだが、お化けのほうが良かったかもしれない。

 ぱちぱちと手をたたきながら、好子たちの目の前に現れたのは、なんと、タキシードを着た女だった。

「すばらしい。実に、あざやかな魔法でした。私の呪縛じゅばく魔法から逃げたのは、あなたたちが初めてですよ」とタキシードの女は言った。


 窓から月光が差し込んだ。その光が女の体を照らし出す。背がすらりと高くて、黒に塗りつぶされたタキシードをぴしっと着こなしている。金髪で色白の顔に、赤く派手な口紅をつけている。どことなく、大人の色気がある。20歳以上だろう。サニーとは違う美人だった。

「さて、自己紹介が遅れました。わたくし、七大災厄の一人、『衝撃のタキシード』と申します」

「あんたがBB団ね!」とサニーが叫んだ。

「そのとおりです。――我らがB.Bベル・バラ様のために」


 衝撃のタキシードが目の前に現れた。

 各国の警察が血眼ちまなこになって探している犯罪組織BB団の幹部である。この機会をのがす事はできなかった。


 とっさに、サニーは束縛そくばく魔法を使った。

 この魔法を使うと、地面から魔法のチェーンが出てきて、文字通り、敵を束縛できる。

 頑丈そうな鎖が、タキシードへ、グルグル巻きにからみつく。その鎖は走るダンプカーすら止められそうだ。

「ジーパン、あんたは出口に回って!」

 サニーに言われたとおり、ジーパンの好子は腕を組んで、工場の出口に立った。


「あと1分か――」とサニーが腕時計を見た。

 あと一分で、ヤッタ・ゼフラン・キスの効果が切れる。そうなれば、お金のかかる束縛魔法を使うと、自分の命が奪われてしまうだろう。

 一刻の猶予ゆうよもない。

「ジーパン、頼んだわよ」

 好子はうなずくと、睡眠すいみん魔法を使った。この魔法で奴を眠らせることができるのだ。


 だが、好子が呪文をとなえるか唱えないかのうちに、衝撃のタキシードは鎖を引きちぎってしまった。

「こんなもので、わたくしをとらえられると思いまして?ちゃんちゃら、おかしくて、ヘソで茶をわかしますわ」

 そう言った途端とたん、恐ろしいスピードで、好子にせまると、「睡眠魔法ダ・ショーネ!もう一度、お眠りなさい」と言って、タキシードの女は好子を眠らせてしまった。

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