第19話 蘇える勤労工場

 サニーが魔法を唱える。あたりに、不思議な光が差し込んできた。

「この地に住む精霊に命ずる。我らの心に呼応こおうして、その名を答えよ。むべき世界から、おのれの魂を取り戻せ。いざ、そちらの体に命を吹き込まん。招魂しょうこん魔法ドド・ルキビューゼ!」

 地響きが起きた。工場の窓が、がたがたと揺れている。


 どこからともなく、女の声が聞こえてきた。


 ――わらわの眠りをさまたげるのは誰?わらわを篠原しのはら重工 広島支部 第三工場と知ってのふるまいか?


 好子は心臓がキュッとにぎりつぶされそうになった。誰もいないのに、大きな声だけが暗闇にひびく。


 一方、サニーは声の主を知っているようで、平気な顔をしていた。

「第三工場さま、夜分やぶん遅く申し訳ないです。あたしは魔法少女のサニーと申す者です。ぜひ、お力添ちからぞえを願えれば――」


 ――サニーとやら。わらわを起こしたのはお前かえ?


「はい。3か月以上前に、第三工場さまのところへ来たセーラーサンという女性について、おたずねしたいことがあって、失礼ながらも」

 サニーはゆっくりと、お辞儀じぎをした。

 好子が考えるに、魔法で、工場の建物の魂を呼び出したらしい。長く使われた物には、付喪つくも神がつくという話を聞いていたので、それだろうと見当をつけた。

 「第三工場」は、驚いたような声を出した。


 ――ぬしらは、あのセーラー服を着た連中の仲間か?


「とんでもございません。あたしたちは、彼女たちを追う者なのです。あの者たちは、ここで何をしていたのですか?」とサニーが聞いた。


 ――おのれ、あのセーラーサンと、タキシードの女め。わらわの体を捨てられた鉄くずよ、価値のない資産よと、さんざんコケにして笑いおったのだ。サニーよ。どうか、奴らを捕まえておくれ。ならば、わらわも協力しよう


「そのために、今日、ここへ来たのです。第三工場さま、教えてください。彼女たちは何を話していたのでしょうか?話の内容が知りたいのです」


 ――よかろう。あやつらが来たのは、4か月前。タキシードの女とセーラー服の少女の二人だった。路面電車と新幹線を襲う算段をしておった


 そのとき、好子がサニーの腹をつついた。「先輩、サンダンってなんですか?新しい魔法ですか?」

「しっ」とサニーは彼女を黙らせた。「算段とは計画の意味よ。あいつら、このアジトで、犯罪の作戦を立ててたみたいね」


 ――そのとおり。路面電車をひっくり返すという話をしておった。もし、それが失敗したときには、7月20日に広島駅を通る新幹線を襲おうと話しておったのだ。新幹線に爆弾を設置して、ある速度まで落ちると、爆破するようにするらしいのじゃ。世にも恐ろしい話とは、このことよ。それきり、やつらは、ここを訪れることはせなんだ


 「第三工場」の話を聞いて、サニーと好子はあぜんとした。

 セーラーサンと衝撃のタキシードは、新しい犯罪をすでに実行しようとしていたのだ。

「ジーパン。今日は何日?」

「先輩。19日です。7月の」

 二人は顔を見合わせた。そして、二人同時に叫んだ。


「明日じゃん!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る