第18話 ちゃっちいの夜中の工場

 好子は、事件の捜査に参加してみたかった。

「ねえ、先輩。さっきのBB団なんですけども……、私たちの手でつかまえてみませんか?」

「面白そうね」とサニーが言った。

 さっきとは、うってかわって、サニーが乗り気だった。これはチャンスかもしれない。

 好子は、思い切って、さきほどは却下きゃっかされた提案をしてみた。

「じゃあ、さっそく、セーラーサンのアジトへ行ってみましょう。なにか、手がかりがつかめるかもしれませんよ!」

「だったら――報告書を書き上げなさい。捜査はそれからよ」

「やった!」

 好子は喜んだ。「急いで、書き上げますね!」


 夜になって、二人はマスクと帽子で変装すると、カボチャのパトカーで、報告書に書かれた町はずれの廃工場へ向かった。

 小さな廃工場は、さびれた場所にあった。すでに廃棄されてから、相当な時間がたっているようだ。さび付いた大きな門が昔の栄華えいがを語る。

 草花が工場の壁に沿うように生えていた。それを楽しむような余裕は、今の彼女たちにはなかった。


「先輩、お化けが出そうですよ」

 怖がる好子を、サニーはしかった。「あんた、バカね。魔法少女がお化けなんて怖がってどうすんのよ」

 工場の門には、見張りの警官らしき女性が一人だけ立っていた。

「中に入るには、あそこの入口しかなさそうね」とサニーがつぶやいた。

 見張りの警官に対して、サニーは自分の身分証明書を見せた。

「お役目、ご苦労さま」

 警官が怪しそうに、身分証明書をのぞき込んだ。というのは、その証明書には、文章が書かれていなかったからだ。白紙のカードに、星のマークや丸が書かれているだけなのである。


 すると、不思議なことに、この警官は敬礼して、「失礼しました」とサニーたちを通してくれるではないか。

「先輩、このマジカル身分証明書って便利ですよね」と好子は、自分が持っている奇妙な記号が書かれたカードを、しげしげと見る。

「魔力がこもっているから、これを見せれば、催眠状態にさせられるのよね。使うと、お金がなくなるのが痛いけど」

 マジカル身分証明書とは、見た者に幻覚を引き起こさせるカードである。これを使えば、子供が立ち入れないような場所にも入ることができるので、パトロールや捜査に役立つのだ。


 工場の内部に入った好子とサニーは、がらんどうとした建物の中を歩いた。ほこりをかぶった機材が、そのまま捨て置かれていた。

 通路を歩くと、ほこりが舞う。懐中電灯を持ってきたが、その光の先は、飛びあがったちりしか見えない。

 いよいよ、奥まで来た。

「先輩、これから、どうすんですか?何も落ちてませんよ」

 好子の言うとおりだった。

 すでに、警察が調べた後なのだろう。手がかりが落ちているとは思えなかった。

 それでも、サニーはあきらめようとしなかった。

「はいつくばって、手がかりを探すのが刑事のやり方なら、あたしたちは、魔法少女のやり方でやるのみ」とサニーは人差し指を立てた。

「――まさか、先輩、魔法を使う気ですか?金かかりません?」

「これは事件の捜査よ。必要であれば、使うべきなわけ。あんたは切り札だから、お金を温存しておきなさい」

「はーい!」と好子が元気よく答えた。

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