第16話 七人の災厄

 サニーが「本当に、タキシードだったの?」と何度も確認した。

 間違いないと、好子は胸を張った。

 ネット上にある舞踏会の動画で見たことがあった。ネクタイと、胸にV字型にのぞかせた白いシャツが特徴のある黒い服だ。見間違えようがなかった。

「あいつの顔は見えませんでした。でも、服は見えたんです」と好子は言った。

「それをもっと早く思い出しなさい!」

 サニーが怒鳴どなったのも無理はなかった。共犯者の服という、重要な手がかりを、3か月もたってから思い出したのだから。


 話を聞いていた黒子は、血相を変えて、スマホで電話した。相手は、刑事課の誰かのようだ。「――あ、もしもし、今いいかしら?レポートのお礼ができそうだわさ。うん、あの事件で。……そう。うちの子が服装を思い出したのだわ。思ったとおり、タキシードだった。こっちにすぐ来られる?――わかっただわさ」

 黒子は、電話を切ると、「サニーとジーパン、ここで待機しなさい」と真面目な顔で命じた。


 やがて、スーツを着た一人の女性警部が飛びこむように入ってきた。

 待機室にやってきた警部は、穂神ほのかみ 琴海ことみと名乗った。ボブカットの髪が印象的な、40代前半の女性である。

「目撃者はどこ?」と琴海が叫ぶ。

「私です」

 好子が手を上げるやいなや、琴海は矢つぎばやに、質問を浴びせかけた。「本当は顔は見たのではないかしら?タキシードを着ていたのね?体全体を見たのだったら、体格はどうだった?あなた、お名前は?」

「あ、あの……ジーパンと呼ばれています」

 その勢いに好子はたじろいだ。


 じれったそうに、琴海はICレコーダーをポケットから取り出した。

 ICレコーダーとは音声を録音できる機械である。琴海警部はそのスイッチを入れると、ある女の声を聞かせた。

 ――我らがB・Bベル・バラ様のために!

「ジーパンさん、この声に、聞き覚えがあるかしら?」

「聞いたことがありません」ときょとんとした目で好子は答える。

「だったら、こっちの声はどう?」

 今度は、さっきのとは別の女の声が聞こえた。

 ――我らがB・Bベル・バラ様のために!


 好子は目をみはった。

 聞いたことがある声だった。忘れることができない声。絶対に。

「この声……あいつです。タキシードの女です。セーラーサンといっしょに現場にいた仲間です」


 琴海は礼を述べた。そして、捜査情報なので、本当は外にらしてはいけないのだが、と前置きしたうえで、声の主が誰なのかを教えてくれた。

「この声はね、ある魔法少女の声を録音したものでね。BB団の幹部で、通称『衝撃のタキシード』というの。一国の国王クラスの財産を持ち、強力な魔法を使える7大災厄さいやくの一人。ICPOから国際手配されている。私たちが追っているんだけど、なかなか、しっぽをつかまえられなかった。先日、ようやく、セーラーサンのアジトがBB団とつながりがあるという情報を得られたの」

 ICPOとは国際刑事機構のことだが、スケールの大きな犯人らしかった。

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