第15話 犯人の一人のシルエット

 黒子がレポート用紙に書かれた文字を読み始めた。


「いわゆる『カモメのセーラーサン』の行方に関するレポート。刑事課によるものだわさ。3か月前の事件に関する捜査報告書だわね。セーラーサンと呼称こしょうされる魔法少女は、指名手配をしたにもかかわらず、いまだ、行方も素性すじょうも不明である。逃亡を手助けしている仲間がいると思われる。足取りをたどった結果、彼女たちのアジトと思われる建物が発見された――」


「え?」とサニーが聞き返した。

 それには答えず、レポート用紙を、ぺらりとめくって、黒子は読み進めた。

「――この建物は、廃工場だったが、すでに放棄ほうきされていた。目撃者の話によれば、事件当日、セーラーサンに似たセーラー服の女が、何度も出入りしていた模様もよう。引き続き、付近の聞き込みに全力をあげるのが望ましい」


 好子は興奮した。「それって、犯人ホシたちの秘密基地じゃないですか!」

 秘密基地という言葉は、子供じみているが、好子はまだ小学5年生なのである。

 さすがに、サニーのほうは冷静だった。

「17歳さん、――それは、マル秘の文書ですよね。どこで手に入れたのですか?」

「蛇の道は蛇だわさ。サニー。なじみがいるんで、回してもらったの」と黒子はレポートの紙をあおぎながら答えた。

 どうやら、知り合いから極秘レポートを、こっそり手に入れたらしい。


 ついに、重要な情報を知った。

 取り逃がした相手だったので、好子は、なんとしてでも自分の手でセーラーサン一味を捕まえたかった。「今すぐ、その廃工場へ行きましょう!」

 だが、サニーはストップをかけた。

「ジーパン、だめよ、あんたとあたしは捜査できないの」

「どうしてですか?刑事課って、魔法少女はいないんでしょう。だったら、私たちのほうが――」


「だめ。犯人たちに、あたしたちの面が割れてる。現在の捜査状況を、犯人に教えるようなものじゃない」とサニーはあきらめさせるように言った。

 黒子も「同感だわさ」とうなずく。


 それでも、あきらめきれない好子は、なんとか捜査したかった。そこで、ない頭をふりしぼって必死に考えた。

 なにか、方法はあるはずだ。

 ぱっと、ひらめくものがあった。

 にひひと笑って、好子はサニーに、こう提案した。

「じゃあ、廃工場近くの学校をパトロールするのは、何も問題ないわけですよね?」

「問題あり。だめね」

「だって、セーラーサンは市内の学校の制服を着てなかったもん。市内の学校にいないもん」

「着ていないからって、付近にひそんでいないという証拠にはならないわけ。ジーパン、わかる?」

 確かに、サニーの意見が正論だった。


 好子はイスにもたれかかった。「せめて、あのセーラー服がどこの学校のものか分かればなあ」

 その姿を、冷ややかな目でサニーは見ていた。

「あんた、さっきから手が止まってるよ。報告書は?」

「あ、いけない!忘れてた」

 パソコンのキーボードをじっくりと好子は見る。ふと、記憶の片隅かたすみに、黒い何かがぼんやりと浮かび上がった。


 何かを思い出せそうだ。忘れていた何かを。

 あと、もう少しで。


「――あ、思い出しました!」と好子は大声で叫んだ。「服です!服」

 驚いたサニーが心配そうに聞いた。「仕事をしすぎて、熱でも出した?ジーパン?」

「……違いますよ。あたし、あのとき、意識を失う中で、セーラーサンの仲間の服を見たんです。あれは――黒のタキシードでした!」

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