第2章 せまりくるカゲキの軍団

第14話 日常(Nich - ijou)

 あれから3か月が過ぎた。

 夏を迎えるようになると、友 好子は、警察の仕事に慣れてきた。


 キスの日のことは、遠い昔のようだった。仕事がいそがしいので、思い出すひますらない。


 あの日、空飛ぶ電車事件の後で、傷害事件と殺人事件が、たて続けに起きた。

 いずれも、魔法少女が引き起こしたものだった。

 すべて、隊長の黒子とサニーが解決した。何もできなかった好子は、そばで「がんばれ」と声で応援した。

 最後には、サニーに「あんたは先に帰ってなさい」と言われたので、彼女は家にとぼとぼと帰った。


 サニーとコンビを組んでみると、相棒の性格が分かるようになった。

 頭は切れるし、行動力もあるが、とにかく、仕事を優先させる。

 コミュニケーション能力が不足しているわけではないのだろう。ただ、ああいう、きつい口調になるのだ。


「ジーパン、報告書の作成は済ませたの?あと1分でできないの?」と、とがめるように言うのは、サニーの性格をよく表していた。


 第08魔法少女小隊――通称、ゼロハチ――の待機室で、10歳の好子は、パソコンの画面とにらめっこしていた。

 スマホを使ったことがあるが、パソコンのキーボードは初めてである。タッチパネルではない、見慣れぬボタンが多くて、好子は辟易へきえきした。

「先輩、魔法を使ってもいいですか?」と聞くのも無理はなかった。


 サニーはダメだと断った。「魔法はお金を使っちゃうでしょ。お給与は、もっと大事なことに使うべきだと思わない?」

「でも、先輩だって、給料で高価なバッグを買ってるじゃないですか」

 じろりと好子がにらみ返す。

「あたしはいいの」とサニーは受け流した。


 前言撤回。

 『他人の事なら』仕事を優先させる性格だと修正するべきだろう。


 放課後、すぐに、この待機室で仕事をするのが、好子の日課となった。

 ゼロハチの仕事は当番制なので、毎日、ここへ出勤する必要はなかった。だが、新人は仕事を覚えるために、ときどき当番ではない日も来ることになっている。そのせいで、相方のサニーも、ここへ来ては、好子を厳しく指導していた。

 おかげで、仕事を多少は覚えられたのだが。


 隊長の黒子が部屋に入ってきた。

「がんばってるわね」

「こんにちは、17歳さん」と好子とサニーがあいさつをした。

 黒子の手には、何か書かれたレポート用紙が数枚あった。

「ジーパン、サニー。二人とも、手を休めずに聞いてちょうだい」

 なんだろうかと、二人は顔を見合わせた。

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