第13話 ツキは無慈悲な夜の女王
好子は自分の机で座ったまま、顔を伏せていた。
待機室の机がスチールなので、
こんなはずではなかったと、後悔の念が山のように押し寄せてくる。いくら頭に血がのぼったとはいえ、氷山を呼び出して落とすなど、市民を危険にさらしてしまったのだ。市民を守りたくて、警官になったのに。
キス――のことは、しばらく、頭の記憶から消しておきたい問題だった。
「ちょっといいかしら。ジーパン」とサニーが聞いてきた。
またも、キスの場面が、映画のワンシーンのように、好子の頭によみがえった。
「なんでしょうか?先輩」
逃げ出したい好子だったが、
恥ずかしくて、顔を上げることもできなかった。
「そのままでいいから、聞いてちょうだい。あたしね、あんたに謝らなくちゃいけないの。ごめんなさい」とサニーが言う。
「キスの事なら、もういいです」
「あんたにキスの儀式は話すべきだった。ごめん――少し、話すのが怖かった。あんたに前もって話すと、絶対に嫌がると思ったから。そうなったら、魔法で戦えなくなるのを恐れていたの」
そんなことだろうと、好子は思っていた。
逆の立場でも、好子はサニーと同じことをやったに違いない。
彼女は顔を上げて、サニーの顔を見つめた。「いいんです。もう。今度からは、キスをする前に、私に許可を取ってください」
「いいえ、謝りたいのは、それだけじゃないの……」とサニーの顔が
ちょっと待て。
嫌な予感がする。
急いで、好子はその言葉の意味を確認する。
「どういうことですか?キスして、魔法を使っても、お金も命も失うわけじゃないんでしょう?」
サニーは深呼吸をした。そして、その真意を明らかにした。
「そうね。確かに、お金も命も失わない。失わないけど、キスした人にとって、大事なものがなくなってしまう」
「大事なもの?」と好子は聞き返した。
「運よ。幸運がなくなるってわけ。キスしてから5時間以内は、不運なことばかりが続くの……」
今、キスしてから、およそ3時間が過ぎた。
ということは、すくなくとも、あと2時間は、不幸なことが続いて起きてしまうかもしれない。
ヤッタ・ゼフラン・キスの法則は、二人の幸運を犠牲にして、魔法を使えるというものだったのだ。
夜を
長い夜になりそうだ。
(第1章「おまわりさんは魔法少女」終 第2章へ続く)
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