第12話 風とともに逃げぬ

 倒れていた好子を抱き起こしたサニーは、たずねた。「何があったの?」

「うーん、先輩。わかんないです。何が何だか――」と頭を押さえた。

 好子はキスをされて、頭が混乱していたうえに、自分がなぜ、倒れしていたのかすら理解できずにいた。

 サニーへの怒りはなくなっていたが、代わりに、冷静さを取り戻しつつあった。


 思い出せ。

 氷山の魔法を使った後、何があったのかを。


 氷山が小さくなった。そして、犯人である中学生がサニーへ話しかけた。

 それから?何があっただろう。あれは……。



「思い出しました!サニー先輩!仲間です。あのセーラーサンには、仲間がいたんです」と好子はさけんだ。

 サニーは、好子の目を見つめた。「それは本当に仲間なの?」

「間違いないです」

 好子はサニーに説明した。

 あの時、好子は背後はいごに人の気配を感じた。振り向こうとすると、「助けに来たのです。セーラーサン」と女のささやく声が、耳元で聞こえた。

 突風が吹くと、好子の意識は失われていった――。


 好子の説明を聞いて、サニーは唇をかんだ。

「犯人は二人以上だったわけね。あたしとしたことが、油断した。共犯者の顔は見たの?ジーパン」

 好子は首を横に振った。「すぐに気を失ったんです。すいません、先輩」

「いいえ、あんたのせいじゃない。これはあたしの油断が招いたことよ」

 サニーになぐさめられた好子は、肩を落とした。自分が情けなかった。


 彼女は、犯人たちを取り逃したのだ。


 しばらくして、救急車がやってきた。

 空を飛んだ路面電車には、お菓子に集まるアリのように、黒い人だかりができていた。

 刑事たちは無事だった乗客たちに事情を聞いていた。好子とサニーにも、刑事が質問をしにやってきた。彼女たちはありのままを答えるしかなかった。

 やがて、夕日が暮れるころに、二人はカボチャのパトカーで、県警本部へ戻った。


 本部の建物へ入りづらかった。好子は初仕事に失敗したのだ。

 サニーが中へ入るようにうながした。

 ゼロハチの待機室には、すでに、隊長の黒子が出張から戻っていた。サニーが事件の顛末てんまつを報告した。

「――以上、魔法少女カモメのセーラーサンと、もうひとり、共犯とおぼしき女は逃亡していると思われます」

「わかっただわさ。私が留守中にもかかわらず、ご苦労様なのだわ。報告書をまとめたら、帰ってもよし」と自分の席に座った黒子は言った。

「はい」

「あと、それから――」思い出したかのように、黒子が付け足す。「ジーパンにキスのことを謝るのがいいのだわ。事前に、許可を取らなかったあなたにも、責任があるのだから」

「はい」


 ひたすら、上司の黒子に対して「はい」とうなずくサニーの顔を見たかった。だが、好子に、見る勇気はなかった。

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