第8話 桜対戦

 ひょっとして、パトカーなのか。

 刑事たちは、この奇妙なカボチャのパトカーに、見覚えがあった。いつも県警本部の駐車場にとめられていたからだった。忘年会の余興よきょうかと考えて無視していた。


 カボチャのパトカーが止まると、中から二人の少女が現れた。

 友 好子と桜 サニーであった。

「魔法機動隊の第08魔法少女小隊、ただいま到着しました!」とサニーが刑事たちに敬礼をした。それを見ていた好子も、遅れて敬礼する。


 だが、様子がおかしい。

 二人は言い争いをしていた。

 儀式を教えろ、いや、それはまだ早い、といった会話が聞こえてきた。


 魔法機動隊は8つの小隊から編成されている。その中でも、一番新しいのが第08ゼロハチである。その隊は、最近になってできたと、刑事たちは知っていた。


 つまり、ド新人の集まりである。


 刑事たちは、顔がさおになった。

「逃げろ!退避たいひだ!魔法少女が戦うぞ!」と警部らしき女が、仲間の刑事へ命令した。我先われさきにと、みんなが逃げた。

 命がいくらあっても足りないからだった。

 経験が豊富な魔法少女であれば、正面から戦うことはしない。敵の不意をついて、こっそりと片付けるだろう。


 しかし、この二人の魔法少女は違う。

 派手はでなカボチャのパトカーを、道のど真ん中に置いて、犯人の前で、自分たちが警官だと名乗りを上げたのだ。これでは、犯人の魔法少女を刺激させるだけで、殺し合いをしましょうと挑発ちょうはつしているようなものだった。


 そんな刑事たちの姿を見て、ついに、一般市民もマスコミも、悲鳴を上げながら、逃げ出した。

 大通りには、人が誰もいなくなった。

 猫やカラスといった動物ですら、危険を察知さっちして、いなくなった。


 取り残されたサニーと好子は、言い争いをやめて、犯人の魔法少女を見た。

 そばかすが鼻のあたりに付いている。来ているセーラー服は、この付近の学校のものではなかった。

「まだ、中学か高校の人じゃないですか」と好子が驚いた。

「あたしたちも、まだ、小学生でしょ」

 サニーの言葉に、好子はうなずいた。


「ちょっと、そこの二人!」と中学生の魔法少女は呼びかけた。「あなたたち、警察の魔法少女ね。だったら、分かるはずよね?……私たち魔法少女には、お金が必要なの!8000万円は持ってきてくれた?」

 好子は舌を出した。「私たちも、お金がないんです……」


 この一言に、犯人は怒ったようだった。

「ふざけるな!早く持ってこい!でないと――」


 がくんと、空中の電車が落ちそうになった。ぎゃあと乗客の叫び声が上がった。

 すると、突然、落ちてくる動きが止まった。電車の窓が、なおもガタガタと音を立てて揺れている。子供の泣き声が、中から聞こえてきた。


「危ない!」

 そう言って駆け寄ろうとする好子を、サニーが手で制した。その力強い手には、固い決意がうかがえた。

「いいこと。ジーパン。これから儀式をおこなうの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る